内腹斜筋(ないふくしゃきん)の基礎知識とトレーニング・ストレッチ
くびれや体幹の安定に大きく関わる、わき腹の「内側の筋肉」が内腹斜筋です。外腹斜筋の一段深いところで、姿勢づくりやひねり動作をしっかり支えています。
1. 筋肉の基本情報
1-1. 位置と構造
内腹斜筋は、外腹斜筋の内側(深い層)にあるわき腹の筋肉です。骨盤の上のフチや腰の筋膜から始まり、 肋骨(ろっこつ:あばら骨)やお腹の真ん中のスジ(白線:はくせん)に向かって、斜め上方向に走っています。
- 起始(きし):腸骨稜(ちょうこつりょう:骨盤の上のフチ)、腰背筋膜(ようはいきんまく:腰の広い膜)、鼠径靭帯(そけいじんたい)など
- 停止(ていし):第10〜12肋骨の下縁、腹直筋鞘(ふくちょくきんしょう)、白線(はくせん)、恥骨(ちこつ)付近など
筋線維(きんせんい:筋肉を形作る細いスジ)は、外腹斜筋と交差するように下から上・内側へ向かって走っており、 体幹を「締める」働きに大きく関わります。さらに深層には腹横筋(ふくおうきん)があり、内腹斜筋と一緒に体幹の安定をつくっています。
1-2. 主な働き
| 働き | 内容 |
|---|---|
| 体幹の回旋(かいせん) |
体をねじる動き。 同じ側の内腹斜筋と反対側の外腹斜筋がペアで働き、スムーズな回旋を生みます。 (例:右にねじるとき=右内腹斜筋+左外腹斜筋) |
| 体幹の側屈(そくくつ) | 体を横に倒す動き。外腹斜筋と一緒に、同じ側へ体幹を倒すときに働きます。 |
| 体幹の前屈 | 腹直筋などと協力して、背骨を前に丸めて上体を前屈させます。 |
| 腹圧(ふくあつ)の維持・体幹の安定 | 腹横筋と連携し、お腹まわりを締めて内臓を支え、腰・骨盤を安定させる「天然コルセット」の一部として働きます。 |
1-3. 関連する日常動作
- 歩行・ランニング時の「上半身と骨盤のねじれ」をつなぐ動き
- ボール投げ、バット・ラケットスイングなど、スポーツでの回旋動作
- 床の物を拾うときなど、体を少しひねりながら前かがみになる動き
- くしゃみ・咳・いきみのときにお腹が固くなる動き(腹圧コントロール)
- 長時間の立ち仕事・座り仕事で、腰を守りながら姿勢を支える動き
2. 内腹斜筋の代表的な筋力トレーニング種目
内腹斜筋は「ひねる・横に倒す・体幹を安定させる」種目でよく働きます。レベル別に紹介します。
2-1. 初級編(基本動作を身につける)
① クローズチェーン・ニーサイドドロップ(ひざ倒し)
目的:軽い回旋動作で、内腹斜筋を意識しながら体幹を安定させる。
- 仰向けになり、ひざを90度くらいに曲げて足を床につけます。
- 両腕を横に広げ、肩を床につけたままにします。
- 両ひざをそろえたまま、ゆっくり左右どちらかに倒していきます。
- わき腹に軽くテンションを感じたところで止め、内腹斜筋でコントロールしながら真ん中に戻します。
- 左右交互にくり返します。
ポイント:ひざを床につけることが目的ではなく、「コントロールできる範囲でねじる」ことが大切です。
② デッドバグ・ツイスト(軽い回旋付きデッドバグ)
目的:体幹の安定を保ちながら、内腹斜筋を含む深層筋を使う。
- 仰向けになり、股関節とひざを90度に曲げて脚を持ち上げます。
- 両腕を天井に向かって伸ばし、お腹に軽く力を入れます。
- 右腕と左脚をゆっくり伸ばしながら、体をほんの少し左にひねります。
- 元の位置に戻し、反対側(左腕+右脚+軽く右ひねり)も行います。
ポイント:腰が反らないように、おへそを軽く背骨側に引き寄せる意識を持ちましょう。
2-2. 中級編(負荷と可動域を増やす)
③ サイドプランク・ヒップリフト
目的:サイドプランクで外腹斜筋・内腹斜筋を支える力として鍛えつつ、上下の動きで負荷を高める。
- サイドプランクの姿勢(ひじと足側面で体を支えて一直線)をつくります。
- 息を吐きながら、お尻を少し床に近づけます。
- 内腹斜筋・外腹斜筋の力で、お尻を持ち上げて元の一直線の姿勢に戻します。
- この上下動をゆっくりくり返します。
ポイント:体が前後にねじれないように、横から見て一直線をキープします。
④ ローテーショナル・プランク(ひねりプランク)
目的:プランク姿勢の安定を保ちながら、内腹斜筋を使ったコントロールを高める。
- 肘つきのフロントプランクの姿勢になります。
- 片足を少し持ち上げ、その足を反対側の床に軽くタッチするように骨盤をひねります。
- 内腹斜筋で体幹を支えながら、元の位置に戻します。
- 左右交互に行います。
ポイント:腰から下だけでねじらず、肋骨のあたりから骨盤までが一体となって回旋するイメージを持ちます。
2-3. 上級編(高負荷・スポーツ動作に近づける)
⑤ パロフプレス(ケーブル/チューブ)
目的:「ねじられそうになる力」に抵抗することで、内腹斜筋・腹横筋を強く鍛えるアンチローテーション種目。
- ケーブルやチューブを、胸の高さで体の横側から引けるようにセットします。
- マシン(または固定したチューブ)に対して横向きに立ち、両手でグリップを胸の前で持ちます。
- お腹に力を入れたまま、腕を前方にまっすぐ伸ばします。
- ケーブルに引っ張られて体がねじれないよう、内腹斜筋でしっかり支えます。
- コントロールしながら胸の前に戻し、くり返します。左右を入れ替えて行います。
ポイント:「ねじる」のではなく「ねじられないようにキープする」ことが目的です。
⑥ スタンディング・ケーブルローテーション
目的:立位の大きな回旋動作で、内腹斜筋をスポーツ動作のように使う。
- ケーブルマシンのハンドルを両手で持ち、マシンに対して横向きに立ちます。
- 足を肩幅に開き、軽くひざを曲げて体幹を安定させます。
- 腕を伸ばしたまま、みぞおち〜骨盤ごと体をひねり、ハンドルを体の前を横切るように動かします。
- 内腹斜筋・外腹斜筋の力で動きをコントロールしながら、ゆっくり元の位置に戻します。
- 左右を入れ替えて行います。
ポイント:腕だけで引っ張らず、足の踏ん張りと骨盤の回旋を連動させて、大きな全身の動きとして行います。
3. 内腹斜筋のストレッチとケア
内腹斜筋は、片側ばかり使う姿勢やスポーツのくせで、左右差が出やすい筋肉です。ストレッチとケアでバランスを整えることが大切です。
3-1. 静的ストレッチ(クールダウン向け)
① サイドベンド+軽いひねりストレッチ
やり方:
- 足を肩幅に開いて立ちます。
- 右手を頭の上に挙げ、左手を腰に添えます。
- 体を左に倒して右わき腹を伸ばし、そこから少しだけ胸を天井側へひねります。
- 内腹斜筋〜外腹斜筋にかけて伸びを感じたところで20〜30秒キープします。
- 反対側も同様に行います。
ポイント:呼吸を止めずに、息を吐くたびに少しずつ伸びを感じる程度までに留めましょう。
② 膝抱えツイストストレッチ(仰向け)
やり方:
- 仰向けになり、片ひざを胸の前に引き寄せて両手で抱えます。
- そのまま、抱えたひざを反対側の床へゆっくり倒します。
- 顔はひざと反対側を向き、わき腹〜腰に軽く伸びを感じます。
- 20〜30秒キープし、左右を入れ替えて行います。
ポイント:肩が床から大きく浮かない範囲で行い、痛みではなく「心地よい伸び」を目安にします。
3-2. 動的ストレッチ(ウォーミングアップ向け)
③ スタンディング・ローテーション(軽めの肩回旋)
目的:内腹斜筋を含む体幹を、軽い回旋で温める。
- 足を肩幅に開き、軽くひざを曲げます。
- 両腕を胸の前で組むか、力を抜いて横に垂らします。
- 骨盤は正面に向けたまま、胸から上を左右にゆっくりひねります。
- 左右10〜15回程度、反動を使わず滑らかに動かします。
④ サイドリーチ・ダイナミック
目的:内腹斜筋・外腹斜筋を、側屈+わずかな回旋で動かしながらほぐす。
- 足を肩幅に開いて立ち、片腕を頭の上に挙げます。
- わき腹を縮める側と伸ばす側を意識しながら、体を左右にリズムよく倒します。
- 20〜30秒ほど、ゆっくりしたテンポで続けます。
ポイント:ウォーミングアップなので、大きく倒しすぎず、痛みのない範囲で行います。
3-3. セルフマッサージ・ケア
⑤ わき腹ラインの手もみマッサージ
やり方:
- 立位または座位で、片手の指をわき腹(肋骨の下〜骨盤の上)に当てます。
- 肋骨のすぐ下からスタートし、小さな円を描くようにやさしくほぐします。
- 少しずつ骨盤側へずらしながら、1〜2分程度ほぐしていきます。
- 反対側も同様に行います。
ポイント:内臓に近い部位なので、強く押し込みすぎず「皮膚と筋膜を動かす」イメージで行います。
3-4. ケガ予防のための注意点
- 回旋系トレーニングは、いきなり高負荷・高速で行わず、初級〜中級レベルからステップアップする。
- 腰痛歴がある場合は、アンチローテーション系(パロフプレスなど)から始め、痛みがなければ動きの大きい種目へ移行する。
- 左右の硬さ・筋力に大きな差を感じる場合は、片側ずつのストレッチ・トレーニング回数を調整し、バランス改善を意識する。