子どもが「サッカー辞めたい」と言ったときの保護者の対応 ― 共感と対話の視点から
長くサッカーを続けていても、ある日ふと子どもから
「サッカー辞めたい」「もうやりたくない」
と言われることがあります。
その一言は、保護者にとってショックであり、不安や戸惑いを生むものです。
ただ、この場面は「親子の信頼を深めるチャンス」にもなります。
ここでは、共感と対話を軸に、どのように関わるとよいかを具体的に整理します。
1. まず知っておきたい「子どもの辞めたい」の裏側
「辞めたい」という言葉の裏には、さまざまな本音が隠れています。
- 試合で上手くいかず、自信を失っている
- コーチや仲間、チームの雰囲気など、人間関係に悩んでいる
- 勉強や他の習い事との両立が難しく、心身ともに疲れている
- 「親や周りの期待が重い」と感じて、プレッシャーになっている
- 単純に、別のことに興味が移っている
つまり、「サッカーそのものが嫌いになった」のか、
「今の環境や状況がつらい」のかで、対応は大きく変わってきます。
その違いを知るためにも、最初の反応がとても重要です。
2. よくある対応と、望ましい対応の違い
| 子どもの言葉 | ありがちな大人の反応 | 共感と対話に基づく望ましい対応 |
|---|---|---|
| 「サッカーもう辞めたい」 |
「せっかくここまで続けたのに何言ってるの」 「甘えるな、最後までやりなさい」 「お金も時間もかけてるのに」 |
「そう思うくらい、今つらいんだね」 「辞めたいって思うくらい、どんなことがあったのか教えてくれる?」 「まずは気持ちを聞かせてほしいな」 |
| 「試合に出してもらえないから意味ない」 |
「もっと頑張れば出してもらえるでしょ」 「みんな我慢して頑張ってるんだよ」 |
「試合に出られないのは本当に悔しいよね」 「いつ頃からそう感じているの?」 「自分では、理由はどんなところにあると思う?」 |
| 「もう楽しくない」 |
「楽しくなくても続けることが大事なんだ」 「そんなこと言ってたら何も続かないよ」 |
「前は楽しそうだったけど、最近は違うんだね」 「いつくらいから楽しくなくなってきた感じ?」 「楽しかった頃と、何が一番変わったと思う?」 |
大切なのは、すぐに説得せず、まずは一度「受け止める」ことです。
「辞めたい」という言葉を否定すると、子どもは本音を話しにくくなります。
3. Step1:すぐに結論を出さず、気持ちをそのまま受け止める
3-1. 最初にかけたい一言
最初の反応は、子どもの心を開かせる鍵になります。
- 「そう思うくらい、今つらいんだね」
- 「まずは教えてくれてありがとう」
- 「急いで答えを出さなくていいから、ゆっくり話を聞かせて」
ここでのポイントは、「辞めたい」という気持ちの是非を評価しないことです。
正しい・間違っているかではなく、「今の心の状態」を共有することが大切です。
3-2. 感情を言葉にしてあげる
子ども自身がうまく言語化できていない場合、保護者が補ってあげると整理しやすくなります。
- 「最近、試合から帰ってくると元気がなかったから、やっぱりしんどかったんだね」
- 「コーチの言葉がきつく感じていたのかな?」
- 「うまくいかないことが続いて、疲れてしまったのかもしれないね」
子どもの表情や様子を見ながら、
「こう感じているのかな?」と、推測しながら言葉を添えることで、
子どもは「分かってもらえた」という安心感を得やすくなります。
4. Step2:理由を一緒に整理するための質問
共感のあとに大切なのは、「なぜそう思うのか」を対話を通して整理していくことです。
詰問にならないよう、ゆっくり、開かれた質問を心がけます。
4-1. 話を引き出すオープンクエスチョン
- 「辞めたいって思うようになったのは、いつ頃から?」
- 「そう思うようになったきっかけみたいな出来事はある?」
- 「サッカーをしているとき、どんな気持ちになることが多い?」
- 「サッカーのどの部分が一番つらい?練習?試合?人間関係?」
4-2. ポジティブな側面も一緒に確認する
辞める・続けるを考える前に、
「サッカーの中でまだ好きな部分」「やりがいを感じる瞬間」がないかも確認します。
- 「サッカーをやっていて『よかったな』と思うことって、何かある?」
- 「今でも少しは楽しいと感じる瞬間はある?」
- 「サッカーを始めた頃は、どんなところが好きだった?」
これによって、
「全部が嫌になった」のか、
「一部がしんどくて全体が嫌に感じているだけなのか」が見えてきます。
5. Step3:一時的な疲れか、環境の問題かを見極める
感情と理由を整理したうえで、何が本質的な問題なのかを一緒に考えていきます。
5-1. 一時的な疲れ・スランプの可能性
少し休んだり、目標や関わり方を変えることで解消されるケースもあります。
- 「最近、学校や他の習い事も忙しくて、単純に疲れているだけかもしれない」
- 「試合でミスが続いて、自信をなくしている時期かもしれない」
その場合は、次のような提案も選択肢になります。
- 「まずは1か月だけ、試合の出場を減らしてもらう・休ませてもらう」
- 「目標を『うまくやる』から『1つチャレンジする』に変えてみる」
- 「家ではサッカーの話をあまりしない期間をつくる」
5-2. 環境が合っていない可能性
コーチの指導スタイルやチームの雰囲気、人間関係が合わない場合、
「辞めるかどうか」だけでなく、「環境を変える」という選択肢もあります。
- 「チームを変える(カテゴリーやクラブを変える)」
- 「しばらくは友だちとの遊びサッカーだけにする」
- 「ポジションや役割を変えてもらえないか相談してみる」
重要なのは、子どもの心身の安全と健康が守られているかです。
強いストレスやいじめ、過度な叱責がある場合は、
無理に続けさせるよりも、環境を変えることを優先すべきです。
6. Step4:最終的な選択は「一緒に決めた」と感じさせる
辞めるにしても、続けるにしても、
子どもが「親に決められた」ではなく、
「自分も一緒に考えて決めた」と感じられることが大切です。
6-1. 決め方のプロセスを見える化する
紙やノートに、「続ける場合」と「辞める場合」のメリット・デメリットを書き出すのも有効です。
- 「続けたら、どんないいことがありそう?」
- 「続けたら、どんな大変なことがありそう?」
- 「辞めたら、どんな気持ちになりそう?」
- 「辞めたら、後で後悔しそうなことはある?」
こうした対話を通じて決めることで、
どちらを選んだとしても、子どもは納得感を持ちやすくなります。
6-2. 決断後にかけたい一言
決めたあとに、保護者からどんなメッセージを伝えるかも大事です。
- 「たくさん考えて決めたんだね。その気持ちを尊重するよ」
- 「サッカーを続けても、辞めても、あなたのことを応援していることは変わらないよ」
- 「今回の経験は、きっとこれからの選択にも活きてくると思う」
7. 保護者自身の気持ちへのケアも忘れない
子どもが「辞めたい」と言ったとき、実は保護者も心の中で
「せっかくここまで頑張ってきたのに…」
「自分のサポートの仕方が悪かったのでは…」
と揺れています。
その気持ち自体は自然なものです。
ただ、その感情を子どもにストレートにぶつけすぎないことが大切です。
例えば、次のような考え方が助けになります。
- 「サッカーはあくまで人生の一部。子ども自身の人生はこれから長く続く」
- 「続けることだけが正解ではなく、『やめる』『変える』という選択にも意味がある」
- 「一番大切なのは、サッカーを通じて育った心の力や経験を、次にどうつなげるか」
8. まとめ:辞めたいと言ったときこそ、信頼を深めるチャンス
子どもが「サッカー辞めたい」と口にした瞬間は、
保護者にとっても試されているように感じる場面かもしれません。
しかし、そのときこそ、次の3つを意識することが大切です。
- すぐに否定せず、まずは感情を受け止める
- 理由を一緒に整理し、「一時的な疲れ」か「環境の問題」かを見極める
- 最終的な選択を「一緒に決めた」と感じられる対話のプロセスを大切にする
サッカーを続けるにしても、辞めるにしても、
共感と対話を土台にした関わりは、
子どもの「自分で考えて選択する力」と「親への信頼」を育てていきます。
それこそが、サッカーを通じて得られる大切な財産の一つと言えるでしょう。