2025年12月1日 プレミアリーグ第13節 チェルシー vs アーセナル (1-1) 分析
戦術分析
ホームのチェルシーは4-2-3-1の布陣で臨み、アウェイのアーセナルは4-3-3を採用しました。ただしアーセナルのアルテタ監督はこの試合、ミケル・メリーノを最前線に据える「偽9番(フォルス・ナイン)」の奇策を取り、メリーノが中盤まで降りてゲームメイクし、その前方にブカヨ・サカとガブリエル・マルティネッリが内側に絞って走り込む形を狙いました。しかしこの布陣では中央が過度に渋滞して縦への推進力が生まれず、前半のアーセナルは相手ペナルティエリア内でのボールタッチがわずか2回と、決定機をほとんど作れませんでした。
一方、チェルシーは序盤から前線へのハイプレスとアグレッシブな姿勢を全面に打ち出し、激しいタックルの応酬も辞さない立ち上がりを見せました。両サイドバックのマルク・ククレジャとマロ・グストは高い位置を取りサイド攻撃に厚みを持たせ、特に左SBククレジャは相手エースのサカに対して開始直後から執拗なチャージを見せ、立ち上がりの10分間で早くも2度のファウルによって警告を受けています。全体として明確なマンツーマンディフェンスは敷かずゾーンで守りつつも、要所では相手のキープレーヤーに対して激しく潰しに行く守備で主導権争いを優位に進めました。
前半36分に退場者を出して数的不利となった後も、チェルシーは安易に守備的な布陣へ移行しませんでした。ポチェッティーノ監督は中盤の一枚を欠いた状況でも代わりの守備的MFを投入せず、リース・ジェームズを中盤にスライドさせて4-2-3の形を維持する大胆な策を選択しています。実際チェルシーは前半の残り時間も自陣に引き籠もらずに戦い、数的不利を感じさせないほどアーセナルに対して互角以上に渡り合いました。空中戦も含めフィジカルコンタクトで一歩も引かず、デュエル勝率ではチェルシーが58.2%、空中戦では70.7%と大きく上回りました。
後半に入るとアーセナルは主将のマルティン・ウーデゴールを投入して中盤の創造性を高め、数的優位を活かして徐々に攻勢を強めました。ウーデゴール投入直後にはチェルシー陣内に相手を押し込み、サカとエベレチ・エゼという二人の「10番」を前線に置いた形で攻撃の厚みを増します。チェルシーは後半立ち上がりに先制した後、次第に自陣深くにブロックを構築してリードを守ろうとしましたが、それでもアーセナルに与えたシュートは最終的に8本に留まり、首位攻撃陣を相手に組織的な守備網が機能したと言えます。アーセナルの攻撃は最後までセットプレーからの1点に抑えられ、チェルシーの戦術的粘り勝ちとも言えるドロー決着でした。
勝敗を分けたポイント
- カイセドの退場(前半36分): 前半最大の分岐点はチェルシーの守備的MFモイセス・カイセドの退場でした。36分、カイセドがメリーノに対して足裏を見せる危険なタックルを犯し、一度はイエローカードとなったもののVARでレッドカードに格上げされました。この判定によりチェルシーは試合残り約60分間を10人で戦うことになりました。
- 10人のチェルシーによる先制点(後半3分): 数的不利のチェルシーでしたが、後半開始直後にセットプレーから先制。左CKからトレヴォ・チャロバーがニアサイドで合わせ、渾身のヘディングシュートでゴールを奪いました。
- アーセナルの同点弾(後半14分): 59分、右サイドでサカがククレジャとの1対1を振り切りクロス。ファーサイドでチェルシー守備陣が手薄になったところをメリーノがヘディングで押し込み同点としました。
- アルテタの采配(後半27分): 同点後の72分、アルテタ監督はエゼを下げてギョケレスを投入。しかしこれにより攻撃の流動性が低下し、アーセナルは勢いを失ってしまいました。ギョケレスのボールタッチはわずか2回にとどまり、交代策は裏目となりました。
- 決定機と試合の流れ: 終盤、チェルシーGKロバート・サンチェスがギョケレスと接触しながら渾身のセーブを見せ、決勝点を阻止。この守備が引き分けに持ち込む上で決定的でした。一方チェルシーは前半にエステヴァンへ絶好機があったものの枠を大きく外し、先制機を逸したことが後に響く形となりました。
選手起用とパフォーマンス
この試合で特に輝いたのはチェルシーの若手選手たちでした。チャロバーは空中戦で鼻から出血する場面もありながら、後半開始直後に値千金の先制点を挙げる活躍。リース・ジェームズは本職の右SBから中盤起用に応え、デュエル勝利数・空中戦数で両チーム最多を記録するなど圧巻の存在感を示しました。GKロバート・サンチェスも複数のビッグセーブでチームを救うなど、この日の守護神として申し分ない働きを見せました。
チェルシーの攻撃陣ではペドロ・ネトとエステヴァンが積極的な仕掛けでチャンスを演出。エステヴァンは序盤に決定機を得たものの決め切れず、これは悔やまれるポイントとなりました。ジョアン・ペドロは前線で体を張って起点を作り、数的不利の中でチームを助けました。
アーセナルは主力センターバックのウィリアム・サリバとガブリエル・マガリャエスが欠場し、代役のヒンカピエとモスケラが最終ラインを形成。奮闘はしたものの、後半早々の失点ではチャロバーを捕まえきれず課題を残しました。中盤ではライスとスビメンディにエゼを加えた形で臨みましたが、エゼは持ち味を出し切れず前半は苦戦。後半投入されたウーデゴールは入った瞬間からボールに触れ続け攻撃を活性化し、存在感を見せつけました。
サカは試合を通じククレジャに厳しく抑えられていたものの、ワンチャンスを逃さず同点アシストを記録。メリーノは偽9番ながら同点ゴールを決め存在感を示しましたが、本職ではないため前線の軸としてはやや物足りない場面もありました。途中投入のギョケレスは決定機に絡めず、守備的なチェルシーを崩すには至りませんでした。
監督の采配
チェルシーのマウリシオ・ポチェッティーノ監督は、選手たちにハイプレスとデュエルを求め、立ち上がりから非常にフィジカルな戦いを展開させました。開始から激しいタックルが連発し、13分でイエローカード3枚が出る荒れた展開となったのは、監督の求めた「戦うメンタリティ」の表れでした。
退場者が出ても即座に守備固めに移行せず、ジェームズを中盤にスライドさせて攻撃の形を維持した判断は特筆すべき采配です。リスクを負いながらも「勝ちに行く姿勢」を貫き、それが後半立ち上がりの先制点に直結しました。終盤には守備的な交代策で逃げ切りを図り、10人で首位アーセナルを相手に勝ち点1をもぎ取る見事なマネジメントでした。
アーセナルのミケル・アルテタ監督はメリーノを偽9番として起用するチャレンジングな布陣を試みましたが、前半は推進力に欠け攻撃が停滞。後半ウーデゴール投入で主導権を握り返したものの、72分のエゼ→ギョケレスの交代は攻撃の流動性を奪いリズムを崩しました。数的優位を持ちながら勝ち切れなかった点は課題ですが、主力CB不在を考えれば敵地で勝ち点1を得たこと自体は悪い結果ではありません。
主審の判定
ロンドン・ダービーとなったこの試合は開始直後からヒートアップし、主審アンソニー・テイラー氏は難しい試合運びを迫られました。開始13分でイエローカード3枚が飛び交うなど非常にタフな展開でした。
前半30分過ぎにはアーセナルのヒンカピエが空中戦でチャロバーに肘打ちを見せた場面があり、チェルシー側は危険な行為として抗議しましたがカードは出ず、VARも介入せず判定には議論が残りました。
前半36分にはチェルシーのカイセドがメリーノに危険なタックルを行い、VARのオンフィールドレビューを経てレッドカードに変更。これが試合に大きな影響を与えました。後半は両チームがやや落ち着き、試合を左右する大きな誤審はなく、全体として主審のコントロール下で試合は進行しました。