サッカーチーム全体で行う準備運動の流れとポイント解説
このページでは、サッカーチーム全体で行う「準備運動(ウォームアップ)」の具体的な流れについて解説します。 目的・やり方・ポイント・注意点を整理し、練習前や試合前にそのまま使える形をイメージしています。 所要時間の目安は全体で15〜20分です。
準備運動の全体構成
チーム全体で行う準備運動は、次のような流れで進めるとスムーズです。 いきなりスプリントやシュート練習から入らず、「徐々に強度を上げる」ことがケガ予防とパフォーマンス向上の鍵になります。
| フェーズ | 内容 | 主な目的 | 時間の目安 | ポイント |
|---|---|---|---|---|
| ① 心拍数を上げるジョグ | ピッチ周りやグリッド内を軽くランニング | 体温・心拍数をゆるやかに上げる | 3〜5分 | 呼吸を乱しすぎない強度で走る |
| ② ダイナミックストレッチ | 脚振り・ランジ・股関節まわりの動的ストレッチ | 関節の可動域を広げ、動きやすい状態を作る | 5〜7分 | 止まりすぎず、リズム良く動かす |
| ③ 基本動作ドリル | スキップ、サイドステップ、クロスステップなど | 方向転換や加速・減速の準備 | 3〜5分 | フォームを意識して「きれいに」動く |
| ④ ボールを使ったウォームアップ | パス&コントロール、ロンドなど | ボールタッチ感覚と判断スピードを高める | 5〜8分 | ミスを気にしすぎずテンポ良く続ける |
| ⑤ スプリント&リアクション | 短距離ダッシュ、スタートリアクション | 試合に近い強度まで引き上げる | 3〜5分 | 本数を絞り、集中して質を高く行う |
フェーズ①:心拍数を上げるジョグ
目的
- 体温と心拍数をゆるやかに上げ、筋肉・関節を動かしやすくする。
- 血流を増やし、これから動くための「準備モード」に体を切り替える。
- チーム全体の雰囲気を整え、集中力を高めるきっかけにする。
やり方
- ピッチの外周または20m×20m程度のグリッドを設定する。
- 全員で軽いジョグを行う。会話できる程度の強度が目安。
- 1〜2周走ったら、後ろ向きジョグやサイドステップを少し混ぜるのもOK。
ポイント
- 最初から飛ばしすぎない。少し汗ばむ程度までゆっくり上げていく。
- 上半身(腕振り、肩まわり)も固まらないように、リラックスして走る。
- コーチは選手の表情や動きを見て、体調が悪そうな選手がいないか確認する。
注意点
- 寝不足や体調不良を訴える選手がいないか、最初のジョグの段階でチェックする。
- いきなりダッシュを求めない。筋肉が冷えた状態での全力スプリントは肉離れのリスクが高い。
フェーズ②:ダイナミックストレッチ
目的
- 股関節・膝・足首・肩など、サッカーでよく使う関節の可動域を広げる。
- 筋肉を伸ばしながら動かすことで、試合中に近い動きに備える。
やり方(例)
20m程度の距離を使い、ゆっくり前進しながら次のような種目を行う。
- ニーアップ(もも上げ)ウォーク:膝を胸のあたりまで引き上げる。
- ヒールアップ:かかとをお尻に引きつけるように歩く。
- 前方ランジ:一歩大きく踏み出して股関節と太ももを伸ばす。
- サイドランジ:横方向に踏み出して内転筋(内もも)を伸ばす。
- レッグスイング:壁やパートナーにつかまり、前後・左右に脚振り。
ポイント
- ストレッチ中に完全に止まりすぎず、「動きながら伸ばす」イメージを持つ。
- 反動で無理に伸ばしすぎない。心地よい範囲でリズム良く動かす。
- 特に股関節まわりは丁寧に行い、キックやターンの動きにつなげる。
注意点
- 痛みが出る方向や角度まで無理に伸ばさない。
- ケガ明けの選手は、チームと同じメニューではなく、トレーナーと相談した内容に変更する。
フェーズ③:基本動作ドリル(ラン系ドリル)
目的
- スプリントや方向転換の前に、基本的な足さばきと姿勢を整える。
- 加速・減速・ストップ・ターンに必要な筋肉を起こしておく。
やり方(例)
- スキップ(前方):リズミカルに腕と脚を連動させて進む。
- サイドステップ:横向きで小刻みにステップしながら前進。
- クロスステップ:前後左右にクロスステップを入れつつ移動。
- ショートシャトル:5〜10mを軽いダッシュで往復し、ストップ動作を意識。
ポイント
- スピードよりもフォームを優先する。姿勢が崩れたまま速く動いても意味が薄くなる。
- 上半身のブレを抑え、腰の位置を安定させたまま足を素早く動かす。
- スタートとストップの「減速動作」にも意識を向ける。
注意点
- 狭いスペースで行う場合、選手同士の接触が起こらないように間隔を調整する。
- スパイクのスタッドが引っかかりやすいグラウンド状況では、無理な急停止を避ける。
フェーズ④:ボールを使ったウォームアップ
目的
- ボールタッチ感覚を取り戻し、パススピードやトラップの質を高める。
- 周囲の状況を見ながらプレーする「認知」と「判断」を早める。
やり方(例)
-
2人1組パス:
- 5〜10mの距離でインサイドパス。
- ワンタッチ、ツータッチを組み合わせる。
-
3〜4人グループパス:
- 三角形や四角形を作り、動きながらパス回し。
-
ロンド(鳥かご):
- 外側の選手がボールを回し、内側の守備がボール奪取を狙う。
ポイント
- ボールスピードを落としすぎない。実戦に近い強さのパスを心がける。
- 常に首を振り、次にどこに出すかを事前にイメージしておく。
- ロンドでは、「奪われてからの切り替え」も意識して行う。
注意点
- 接触プレーはまだ抑えめにし、あくまでウォームアップの一部として行う。
- グラウンドコンディションが悪い場合は、パスの強さと足首の使い方に注意する。
フェーズ⑤:スプリント&リアクション
目的
- 試合やメイン練習で必要な「最大スピード」に近い強度を体に経験させる。
- スタートの反応や一歩目の速さを高める。
やり方(例)
- 10〜15mのスプリントを4〜6本程度。
- コーチの合図(笛・声・手の上げ下げ)でスタートするリアクションダッシュ。
- 前向きダッシュだけでなく、後ろ向きからの方向転換→前方ダッシュも組み込む。
ポイント
- 本数をやり過ぎない。1本ごとの質(集中・スピード)を重視する。
- ダッシュ後に十分な休憩を入れ、常に「速く走れる状態」で次の本数に入る。
- 上体を前に倒しすぎず、自然な前傾姿勢でスタートする。
注意点
- ハムストリングス(もも裏)に違和感がある選手は、本数を減らしたり、強度を落としたりする。
- ウォームアップの最後に入れるため、疲れすぎてメイン練習の質が落ちないように調整する。
準備運動全体で共通するポイントと注意点
共通ポイント
- 「徐々に強度を上げる」ことを意識し、いきなり全力の動きに入らない。
- 姿勢・フォームを常に意識し、雑な動きのままスピードだけを上げない。
- メニューを「形だけこなす」のではなく、この後の練習や試合で何をしたいかをイメージしながら行う。
共通の注意点
- ケガ明け、体調不良、疲労が強い選手には同じメニューを強制しない。
- 気温やピッチコンディションに応じて、ジョグやダイナミックストレッチの時間を長め・短めに調整する。
- ウォームアップ中の小さな違和感も見逃さず、選手自身が早めに申告できる雰囲気を作る。
上記の流れをベースに、チームの年代やコンディション、練習テーマに合わせて少しずつアレンジすると、 「ルーティンとしての準備運動」から「パフォーマンスを引き上げる準備運動」に変えていくことができます。