「もっとちゃんとやりなさい」が子どもの心に与える影響と、前向きな声かけへの言い換え
はじめに
練習中や試合後、思うようなプレーができない子どもを見ていると、 つい口から出てしまいやすい言葉が「もっとちゃんとやりなさい」です。 悪気はなく、「真剣に取り組んでほしい」「伸びてほしい」という願いから出る言葉ですが、 受け取る側の子どもにとっては、やる気を下げるメッセージになってしまうことが少なくありません。
ここでは、メンタルコーチの視点から、この言葉が子どもにどのように響くのかを整理し、 代わりに使いたい前向きな声かけの例を紹介します。
「もっとちゃんとやりなさい」が子どもに与える印象
1. 何をどう直せばいいか分からない
「もっと」「ちゃんと」という言葉は非常にあいまいです。 大人の頭の中には具体的なイメージがあっても、 子どもには「パスを強く出すのか」「ポジションを早く取るのか」 「声を出すのか」など、どこを改善すればよいのかが明確に伝わりません。
その結果、 「どうしていいか分からないのに怒られている」という感覚だけが残り、 行動につながりにくくなります。
2. 今までの努力を否定されたように感じる
子どもなりに一生懸命やっている場面でこの言葉をかけられると、 「自分の頑張りは認められていない」「まだまだダメなんだ」と感じやすくなります。 これは自己効力感や自己肯定感を下げる要因になります。
「どうせ何をしても『もっとちゃんと』と言われる」と思い始めると、 新しいチャレンジをする意欲も落ちていきます。
3. 失敗を恐れてプレーが縮こまる
「ちゃんとやらないと怒られる」というメッセージとして受け取ると、 子どもの関心は「うまくプレーすること」ではなく 「怒られないようにすること」に向かいます。
その結果、 リスクを取らない安全なプレーばかり選ぶようになり、 本来伸ばしたいはずの創造性や積極性が失われていきます。
4. 親・指導者との関係が「監視と評価」になりやすい
「もっとちゃんとやりなさい」が繰り返されると、 子どもは親や指導者を 「失敗を見つけて注意してくる人」と感じやすくなります。 すると、本音や弱さを見せにくくなり、相談や対話が減っていきます。
子どもの内面で起こっていること
- 「どうせまたダメ出しされる」という予測から、意欲より防御が優先される
- ミスの理由(緊張・理解不足・技術不足など)を話そうとする前に黙り込んでしまう
- 「分かってもらえない」「評価されるだけ」という感覚が蓄積し、関係性の信頼が弱まる
前向きな声かけに変えるための基本方針
モチベーションを高める声かけには、次の4つのポイントがあります。
- 評価よりも観察を伝える(事実ベースでプレーを描写する)
- あいまいな「ちゃんと」ではなく、具体的な行動を示す
- できている部分を認めてから、改善点を一つだけ提示する
- 命令ではなく問いかけで、子ども自身に考えさせる
NGフレーズとおすすめの言い換え例
| NGフレーズ | 子どもの受け取りやすいメッセージ | おすすめの言い換え |
|---|---|---|
| もっとちゃんとやりなさい | 「今の自分は全然ダメ」「何をしても足りない」 | 「今のプレーで良かったところと、もう少し工夫したいところはどこだと思う?」 |
| 集中してちゃんとやりなさい | 「集中してないと決めつけられている」 | 「この5分だけ、パスの強さに意識を絞ってみようか」 |
| ちゃんと聞いてる? | 「聞いていない前提で責められている」 | 「今の説明で分かりにくいところあった? 一緒に確認しよう」 |
| ふざけないで、ちゃんとやりなさい | 「楽しくやること=悪いこと」と感じる | 「今は遊びじゃなくて練習の時間だから、この2本だけ真剣モードでやってみよう」 |
| 試合なんだから、もっとちゃんとやらないと | 「失敗してはいけない」「怒られるかもしれない」 | 「今日は何を一番意識してプレーしたい? それだけは最後までやり切ろう」 |
場面別・前向きな声かけの具体例
1. 練習で集中力が切れてきたとき
避けたい言葉:「ちゃんとやりなさい」「ダラダラしないで」
おすすめ:
- 「今ちょっと疲れてきたね。このメニュー、あと3回だけ全力でやろう」
- 「今のセットはどこが良かった? 次の1本でそこをもう一回だけ意識してみよう」
2. 指示と違うプレーをしてしまったとき
避けたい言葉:「だからちゃんと聞きなさいって言ったでしょ」
おすすめ:
- 「今の場面、どう判断したか教えてくれる? そこから一緒に考えよう」
- 「さっきの約束と違う動きになったね。どこで迷ったか一緒に確認しようか」
3. 試合でミスが続いているとき
避けたい言葉:「もっとちゃんとやりなさい、ミスしすぎ」
おすすめ:
- 「パスを受ける位置は良いから、次はトラップだけ丁寧に意識してみよう」
- 「ミス自体は気にしなくていいよ。次の1プレーで何をやるかだけ考えよう」
まとめ
「もっとちゃんとやりなさい」という言葉は、 大人にとっては励ましや期待のつもりでも、 子どもには「今の自分は足りない」「何をしても認められない」というメッセージとして届きやすく、 モチベーションや自己肯定感を下げてしまうリスクがあります。
代わりに、事実の観察・具体的な行動・プロセスへの注目・問いかけを意識した声かけに変えることで、 子どもは「自分で考えて成長していく感覚」を持ちやすくなります。 同じ場面でも、言葉を少し変えるだけで、プレーの質だけでなく、 親子・指導者と子どもの信頼関係も大きく変わっていきます。