「その練習、意味ない」は逆効果|挑戦意欲と自己効力感を守る“改善を一緒に考える”声かけ例
「その練習、意味ない」は逆効果|挑戦意欲と自己効力感を守る“改善を一緒に考える”声かけ例
サッカーの現場では、選手の成長を願うほど指導が強くなりがちです。しかし「その練習のやり方はダメ」「意味ない」
といった否定型の言い方は、短期的には従わせられても、長期的には挑戦意欲と自己効力感(やればできる感覚)を下げ、
自主性・継続・成長速度を鈍らせることがあります。ここでは、その理由と、改善点を“選手と一緒に考える”ための声かけ例を具体的に紹介します。
否定する言い方が逆効果になりやすい理由
| 起こること |
心理的メカニズム |
現場での結果 |
| 自己効力感が下がる |
「やり方がダメ」→「自分がダメ」と解釈しやすい。成功の見通しが立たなくなる |
挑戦を避ける、無難なプレーが増える、練習の質が落ちる |
| 内発的動機づけが落ちる |
否定が続くと「怒られないためにやる」になり、楽しさ・探究心が減る |
言われたことだけやる、工夫が消える、伸びしろが縮む |
| 学習が“防衛モード”になる |
脳は脅威を感じると失敗回避を優先し、注意が狭くなる(ミスの再発) |
判断が遅れる、視野が狭くなる、試合で縮こまる |
| フィードバックの受容が落ちる |
人格否定に近い形だと、内容より感情が先に立つ(反発・萎縮) |
聞いているようで入らない、改善が進まない |
| 挑戦の“損得”が悪化する |
挑戦→失敗→否定、の経験が増えると「挑戦=損」になる |
新しいプレーに手を出さない、成長が止まる |
否定が強い指導がもたらす「選手の行動変化」
| 表に出る行動 |
内側で起きていること |
コーチが見落としやすい点 |
| 積極性が消える |
ミスを恐れて“安全策”を選ぶ |
やる気がないのではなく、リスク評価が変わっている |
| 質問しなくなる |
「聞くと否定される」学習 |
理解不足が放置される |
| 練習の工夫がなくなる |
自分で考えるほど損だと感じる |
伸びる選手ほど“試行錯誤”が武器なのに奪ってしまう |
| 表情が硬くなる |
評価され続けて緊張が慢性化 |
スキル不足ではなく“メンタル負荷”の可能性 |
改善点を一緒に考える声かけの基本フレーム
目的は「間違い探し」ではなく、次の一歩を具体化して成功確率を上げることです。
否定の代わりに、次の流れを使うとコミュニケーションが安定します。
| ステップ |
狙い |
声かけ例 |
| ① 事実の確認 |
感情で断定せず、観察ベースに戻す |
「今の場面、最初のタッチが少し大きくなったね」 |
| ② 意図を聞く |
選手の狙いを尊重し、対話の土台を作る |
「今のプレー、何を狙ってた?」 |
| ③ 良かった点を固定 |
自己効力感を守り、再現性を高める |
「判断は速かった。そこはすごく良い」 |
| ④ 改善を1点に絞る |
情報過多を防ぎ、成功体験を作る |
「次は“足首を固めて”タッチを小さくしよう」 |
| ⑤ 次のトライ条件を決める |
成功の定義を明確化する |
「次の3本は“ボールを足元から30cm以内”で」 |
| ⑥ 一緒に振り返る |
学習を定着させる |
「今の3本、どれが一番良かった?理由は?」 |
否定型 → 改善協働型:言い換え例(そのまま使える)
| NG(否定型) |
OK(協働型) |
狙い |
| 「その練習、意味ない」 |
「目的をはっきりさせよう。今の練習で伸ばしたいのは何?」 |
練習の意図を言語化し、主体性を引き出す |
| 「やり方が違う」 |
「狙いはいい。精度を上げるなら、ここを少し変えよう」 |
価値を認めつつ修正点を提示 |
| 「だからダメなんだ」 |
「ここを整えると成功率が上がる。次はこの条件で試そう」 |
人格否定を避け、手段にフォーカス |
| 「もっとちゃんとやれ」 |
「“ちゃんと”を具体化しよう。今は何を1つ改善する?」 |
曖昧さをなくし、行動に落とす |
| 「同じミスばっかり」 |
「ミスの型が見えてきた。次は“最初の準備”を変えてみよう」 |
ミスを学習材料に変える |
| 「センスない」 |
「センスより手順。判断の前に“見る場所”を決めよう」 |
能力固定ではなくスキル習得へ誘導 |
場面別:改善点を一緒に考える声かけ例
1)技術練習(トラップ・パス)の場合
| 場面 |
声かけ |
次の一手(具体化) |
| トラップが大きい |
「判断は速い。次は“足首を固める”だけ意識してみよう」 |
「3回連続で足元30cm以内に止める」 |
| パスがずれる |
「狙いは合ってる。軸足の向きを合わせたら精度が上がる」 |
「軸足のつま先をターゲットへ。次の5本で確認」 |
2)判断(プレー選択)の場合
| 場面 |
声かけ |
次の一手(具体化) |
| ドリブルに偏る |
「仕掛ける姿勢は強み。次は“1回見る→判断”を挟もう」 |
「受ける前に1回首を振る。成功した回数を数える」 |
| 縦パスが出ない |
「失わない判断も大事。縦の条件が揃ったら1回だけ挑戦しよう」 |
「前向き+相手の間が空いたら1回トライ」 |
3)努力・姿勢(練習態度)の場合
| 場面 |
NGになりやすい言い方 |
協働型の声かけ |
| 集中が切れている |
「集中しろ」 |
「今の集中度は10点中いくつ?1点上げるなら何を変える?」 |
| 反復が雑 |
「適当にやるな」 |
「丁寧さの基準を決めよう。今日は“ここだけ”守る」 |
コーチ側の“言い方のコツ”3つ
| コツ |
ポイント |
例 |
| 人格ではなく手段を扱う |
「性格・才能」ではなく「動作・判断・準備」に落とす |
×「向いてない」→ ○「見る場所を1つ決めよう」 |
| 改善は1点に絞る |
一度に直すと自己効力感が下がる |
「今日はファーストタッチだけ」 |
| 成功の定義を作る |
何ができたらOKかを明確化 |
「3本連続で成功したら次へ」 |
まとめ
- 否定型の言い方は「挑戦=損」という学習を生み、挑戦意欲と自己効力感を下げやすい。
- 対話の基本は「事実→意図→良かった点→改善1点→次の条件→振り返り」。
- 言い換えは“目的と次の一歩”にフォーカスすると、選手の主体性と成長速度が上がる。