他人を使って脅す言葉が自律性を失わせる理由と、理解を促す声かけへの変換方法
「他人を使って脅す言葉」とは
ここでいう「他人を使って脅す言葉」とは、第三者(監督・コーチ・親・チームメイト・先生など)を持ち出して、 子どもを従わせようとする言い方を指します。
- 「コーチに言いつけるよ」
- 「そんなことしてたらレギュラー外されるよ」
- 「みんなに嫌われるよ」
- 「〇〇くんはできてるのに、なんで君はできないの?」
自律性(自分で決めて動く力)を失わせる3つの理由
子どもの行動を変えるには即効性があるように見えても、長期的には自律性を弱めやすいのがこのタイプの声かけです。 主な理由は次の3つです。
| 起こりやすいこと | 子どもの内側で起きる反応 | 長期的な影響 |
|---|---|---|
| 「怒られないため」に動く | 目的が「回避」に変わる(恐れ・不安が主導) | 主体性が育ちにくく、指示待ちになりやすい |
| 納得ではなく「服従」になる | 理解よりも“その場しのぎ”を選ぶ | 学びが残らず、同じミスや態度が繰り返されやすい |
| 信頼関係が揺らぐ | 「この人は味方じゃない」と感じやすい | 報告・相談が減り、隠す・嘘をつく方向に進むことがある |
「理解を促す声かけ」に変える基本フレーム
脅しではなく理解を促すためには、事実→影響→選択肢→合意の順で言葉を組み立てると整理しやすくなります。
- 事実:何が起きているか(評価を入れずに)
- 影響:それによって何が困る/どうなるか
- 選択肢:どうすれば良いか(2〜3案)
- 合意:本人が選んだ行動を確認する
変換例:脅す言葉 → 理解を促す声かけ
| 避けたい言い方(脅し) | 何が伝わりやすいか | おすすめの言い換え(理解→行動) |
|---|---|---|
| 「コーチに言いつけるよ」 | 恐怖・監視・不信感 | 「今のままだと練習が止まってしまう。どう直す?今ここで一回整えよう」 |
| 「レギュラー外されるよ」 | 不安で動く/萎縮 | 「試合で出るために必要な基準がある。今日はどこを改善して基準に近づけよう?」 |
| 「みんなに嫌われるよ」 | 孤立への恐怖 | 「今の言い方だと相手はどう感じると思う?次はどんな言い方に変える?」 |
| 「〇〇くんはできてるのに」 | 比較・劣等感・反発 | 「君はどこで止まった?うまくいった瞬間はあった?そこから作り直そう」 |
| 「言うこと聞かないならもう知らない」 | 見捨てられ不安 | 「困ってるのは“やり方”の部分だと思う。どのやり方ならできそう?一緒に決めよう」 |
子どもの理解を深める「質問」の使い方
理解を促す声かけの中心は質問です。詰問ではなく、整理を助ける質問にします。
| 目的 | 質問例 | 狙い |
|---|---|---|
| 状況整理 | 「いま何が起きてる?」 | 事実に戻して落ち着かせる |
| 影響理解 | 「このままだと何が困る?」 | 理由を自分の言葉で言えるようにする |
| 選択肢づくり | 「次はどうする?AとBならどっち?」 | 行動を“選べる”状態にする |
| 行動の約束 | 「じゃあ次の5分は何を意識する?」 | 具体化して再現性を上げる |
実践ポイント:叱るより「基準」を共有する
脅し言葉が出やすい場面は、指導側が「守ってほしい基準」をうまく言語化できていない時に起きがちです。 次のように基準を先に共有すると、脅しを使わずに済みます。
- 練習の基準(例:切り替えは3秒以内、声かけは具体的に、集合は1回で)
- 試合の基準(例:ロスト後の戻り、守備の立ち位置、周囲への情報提供)
- 態度の基準(例:相手を傷つけない、道具を大切に、あいさつ)
まとめ
他人を使って脅す言葉は、短期的に行動を止める力はあっても、子どもの自律性(自分で選び、理解して動く力)を弱めやすい表現です。 事実→影響→選択肢→合意で言葉を組み立て、理解を促す質問を使うことで、 子どもが「納得して動ける」状態を作りやすくなります。