サッカーにおける脳震盪(コンカッション)完全ガイド:チェック・観察・復帰プロトコルと指導者/保護者の対応
脳震盪(コンカッション)は、頭部への衝撃(頭同士の接触、地面への転倒、ボールが近距離で当たる、身体接触での衝撃など)によって脳の機能が一時的に乱れる状態です。 外見上は問題なさそうに見えても、判断力・反応・平衡感覚・視覚などが低下し、競技続行や早期復帰が重大事故につながる可能性があります。 本記事では、頭部接触直後のチェックポイント、軽視の危険性、正しい経過観察、段階的な競技復帰(Return to Sport)プロトコル、保護者・指導者がとるべき具体的対応を整理します。
1. 頭部接触後の「最優先」原則
- 疑ったら、即時に競技から外す(When in doubt, sit them out)
- 同日復帰は原則しない(症状が消えたように見えても、脳の回復は遅れていることがあります)
- 一人にしない(観察者をつける。帰宅時も保護者に確実に引き継ぐ)
- 医療評価につなぐ(特に赤旗所見があれば救急対応)
2. 現場でのチェックポイント(頭部接触直後〜数十分)
まずは安全確保(頸部損傷の可能性も考慮)をし、次に「意識・神経症状・行動変化」を中心に評価します。 現場では診断ではなく「脳震盪の疑いを拾い上げる」ことが目的です。
2-1. その場で確認する観察・問診
| 分類 | チェック内容(例) | ポイント |
|---|---|---|
| 意識・反応 | ぼんやりしている/反応が遅い/受け答えがちぐはぐ | 一瞬でも「いつもと違う」なら疑いが強い |
| 記憶・見当識 | 「今どこ?」「相手はどこ?」「何点?」「直前のプレーは?」に答えられない | 記憶の抜けは重要所見。本人がごまかすこともある |
| バランス・歩行 | ふらつく/まっすぐ歩けない/立っていられない | 平衡機能低下は競技続行リスクが高い |
| 視覚・眼 | 二重に見える/視界がぼやける/光がつらい | 「見え方の違和感」は本人が申告しないこともある |
| 頭痛・めまい | 頭痛/めまい/吐き気 | 時間差で出ることがあるため経過観察が必須 |
| 行動・感情 | イライラ/不安/泣きやすい/普段より攻撃的 | 「性格が変わったように見える」場合がある |
| 眠気・疲労感 | 急に眠そう/極端にだるい | 単なる疲労と誤認しやすい |
| パフォーマンス | 判断が遅い/パスがずれる/ボールコントロールが不自然 | 競技中の「プレーの変化」は重要なサイン |
2-2. すぐに救急対応を要する「赤旗(レッドフラッグ)」
以下が1つでもあれば、救急要請(119)または直ちに救急受診を検討してください(頭蓋内出血など重篤病態の除外が必要です)。
- 意識消失(短時間でも)または意識レベルの低下
- けいれん
- 繰り返す嘔吐
- 強くなる頭痛、激しい頭痛
- ろれつが回らない、麻痺・しびれ、明らかな運動障害
- 極端な興奮、錯乱、異常行動
- 瞳の大きさが左右で違う、視力の急な異常
- 首の強い痛み、頸部損傷が疑われる状況
3. 軽視の危険性:なぜ「大丈夫そう」が危ないのか
3-1. 反応・判断低下による二次事故
脳震盪では、反応時間や視覚処理、バランスが低下しやすく、接触プレーや空中戦で再度衝撃を受けるリスクが上がります。 これは本人の気合や根性では補えません。
3-2. セカンドインパクト(再受傷)リスク
回復途中に再び頭部衝撃を受けると、症状が急激に悪化したり、重篤な結果につながる可能性があります。 特に若年層は慎重な対応が求められます。
3-3. 症状は「遅れて出る」ことがある
直後は平気でも、数時間〜翌日に頭痛、吐き気、倦怠感、集中困難、睡眠の乱れなどが出るケースがあります。 そのため、当日の観察と翌日以降のフォローが重要です。
4. 正しい経過観察(当日〜数日)
4-1. 当日の対応(現場〜帰宅後)
- 当日は運動中止(練習・試合・自主練・筋トレ含む)
- 車・自転車の運転は避ける(可能なら保護者が送迎)
- 一人にしない(観察者をつける)
- 症状の変化を記録(頭痛、吐き気、眠気、集中、光・音のつらさ等)
- 飲酒は不可(年齢に関係なく原則として避ける)
4-2. 24〜48時間の基本方針(休ませ方のコツ)
完全に何もさせない「絶対安静」を長期間続けるより、症状を悪化させない範囲で日常活動を調整する方が回復に有利な場合があります。 ただし、最初の24〜48時間は無理をしないことが前提です。
| 項目 | 推奨 | 避けたいこと |
|---|---|---|
| 睡眠 | 十分な睡眠。昼寝も可(過度でなければ) | 夜更かし、睡眠不足 |
| 画面(スマホ/PC) | 症状が悪化しない短時間から。必要最低限に調整 | 長時間視聴、強い光や大音量のゲーム/動画 |
| 学業・仕事 | 集中できる範囲で段階的に復帰(短時間→延長) | 無理な徹夜、テスト前の過剰な詰め込み |
| 運動 | まずは安静。医療者の指示に沿って段階復帰 | ランニング、筋トレ、コンタクト練習、ヘディング |
4-3. 受診の目安
- 赤旗所見がある場合:即時
- 赤旗がなくても、症状が続く/悪化する/日常生活に支障:早めに受診
- 既往に脳震盪が多い、片頭痛がある、学習・注意の課題がある場合:慎重に評価
5. 競技復帰プロトコル(Return to Sport:段階的復帰)
競技復帰は「症状がゼロになったからOK」ではなく、段階的に負荷を上げ、各段階で症状が再燃しないことを確認するのが基本です。 ここでは現場で運用しやすい標準的な流れを提示します(最終判断は医療者の指示を優先してください)。
5-1. 実施条件(開始前の前提)
- 安静時に症状がない(頭痛、めまい、吐き気、集中困難など)
- 日常生活(学業・仕事)で大きな支障がない
- 必要に応じて医療者の許可がある
5-2. 段階的復帰ステップ(例)
| ステップ | 内容 | 例 | 進行基準 |
|---|---|---|---|
| Step 1 | 症状に配慮した日常活動 | 短時間の読書、軽い家事、通学/通勤の調整 | 症状が悪化しない |
| Step 2 | 軽い有酸素(非接触) | ウォーキング、エアロバイク(低強度) | 運動で症状が出ない/増えない |
| Step 3 | サッカーの個別ドリル(非接触) | 軽いパス&コントロール、方向転換は控えめ | 症状が出ない/増えない |
| Step 4 | 強度を上げたドリル(非接触) | テンポの速いパスワーク、ランを増やす | 症状が出ない/増えない |
| Step 5 | チーム練習復帰(接触を含む可能性) | 対人を含む通常練習(医療者の許可が望ましい) | 練習後〜翌日に症状がない |
| Step 6 | 試合復帰 | 公式戦/練習試合 | 完全復帰 |
5-3. 運用ルール(重要)
- 各ステップは、原則として少なくとも1日(24時間)以上あけて進める
- どこかで症状が出たら:その日の運動を中止し、症状が落ち着いてから1段階戻す
- ヘディングは最後の最後(復帰終盤まで実施しない。再開も段階的に)
- 復帰は「本人の自己申告」だけに依存しない(保護者・指導者・トレーナーが総合判断)
6. 保護者・指導者がとるべき対応(現場の型)
6-1. 指導者(監督・コーチ)の基本対応
- 頭部接触が起きたらプレーを止め、対象選手を確実に外す
- 「大丈夫?」だけでなく、見当識の質問と歩行・バランスを確認
- 疑いがあれば同日復帰させない(勝敗より安全)
- 保護者へ状況・症状・注意点(赤旗)を文面で共有できると理想
- 復帰は段階的プロトコルに従い、対人・試合復帰を急がせない
6-2. 保護者の基本対応
- 帰宅後は一人にせず、当日〜翌日にかけて症状の変化を観察
- 頭痛、吐き気、眠気、集中困難、光/音過敏、情緒不安定などをチェック
- 赤旗所見があれば迷わず救急受診
- 学校・スクール・クラブへ「脳震盪の疑いがあった」ことを共有し、復帰を段階化
6-3. チームとして整備したい運用(仕組み化)
| 項目 | 内容 | 狙い |
|---|---|---|
| 報告ルート | 頭部接触→誰が判断→誰が保護者に連絡→誰が記録 | 「その場の雰囲気」で流されない |
| 記録 | 発生状況、初期症状、観察結果、受診の有無、復帰ステップ | 再発防止・安全な復帰判断に役立つ |
| 復帰基準 | 段階的復帰のステップ表をチームで共通運用 | 個人差を尊重しつつ最低限の安全を担保 |
| 教育 | 選手・保護者へ「申告の重要性」「隠すリスク」を周知 | 無申告・過小申告の抑制 |
7. よくある落とし穴(現場で起きやすい)
- 「気持ちの問題」扱い:脳の機能低下は精神論では改善しない
- 「症状がないと言ったからOK」:本人が出場したくて隠すことがある
- 同日復帰:短期的にはプレーできても、判断低下で二次事故を招く
- ヘディングの再開が早い:復帰終盤まで段階的に管理する
- 学業・仕事の負荷を無視:脳は運動だけでなく認知負荷でも悪化することがある
8. まとめ(実務の要点)
- 疑ったら即時離脱、同日復帰は原則しない
- 赤旗所見は救急対応。赤旗がなくても経過観察は必須
- 24〜48時間は無理をしない。症状悪化を避けつつ日常復帰を調整
- 段階的復帰(Return to Sport)で負荷を上げ、症状再燃がないことを確認
- 保護者・指導者が仕組み化(記録・共有・復帰基準)して安全性を底上げする
脳震盪対応は「早く復帰させる」ためではなく、「安全に、再発なく復帰させる」ための手順です。 チーム運用として整備することで、選手・保護者・指導者の全員が判断しやすくなり、事故の芽を確実に摘めます。