マンチェスター・ダービー戦術分析 2026年1月17日|キャリック初陣ユナイテッドがシティを2-0撃破した守備ブロックとカウンターの設計図
2026年1月17日、オールド・トラッフォードで行われたプレミアリーグ第22節マンチェスター・ダービーは、マンチェスター・ユナイテッドがマンチェスター・シティを2–0で下しました。 ユナイテッドはマイケル・キャリック新暫定監督の初陣。守備を最優先に置いた堅牢なブロックと、奪ってから数秒で完結するショートカウンターで完勝しました。 一方のシティはボール保持で上回りながらも、ユナイテッドの密集とトランジション対策に詰まり、決定機の不足がそのまま無得点に直結しました。
1. 試合概要:初陣で“現実解”を提示したキャリック
キャリックは初戦から4-2-3-1を採用し、守備時は4-4-2気味に整えて中央を閉鎖。 攻撃は保持に固執せず、ボール奪取から一気に前線へ運ぶ設計でシティの背後と中盤の空白を突く形を徹底しました。 結果として、支配率では劣っても「勝負所(トランジション)を支配」したユナイテッドが試合を制しました。
| 項目 | マンチェスター・ユナイテッド | マンチェスター・シティ | 勝敗へ直結した要点 |
|---|---|---|---|
| 基本布陣 | 4-2-3-1(守備時4-4-2化) | 4-3-3(4-1-2-3) | ユナイテッドが中央を閉じ、シティの縦進入を抑制 |
| 守備設計 | ミドルブロック+局面で5〜6バック化 | 保持で押し込むが、崩し切れず | “密集”でスペース消滅→シティの攻撃が停滞 |
| 攻撃設計 | 奪って即縦(ショートカウンター) | 3-2-5/3-1-6で押し込む | シティの前掛かりがカウンター耐性を下げる |
| 決定打 | ブルーノ起点の縦刺し+WB/SHの高速追い越し | セットプレー以外の決定機が不足 | “奪取→数秒でフィニッシュ”の質で差が出た |
2. キャリック新体制の戦術:4-2-3-1を“可変の母艦”にする
キャリックは4-2-3-1を固定配置ではなく「局面で姿を変える母艦」として運用しました。 守備時はブルーノ・フェルナンデスがムベウモと並び4-4-2の先頭を形成し、相手CBとアンカー(ロドリ)への縦パスを制限。 中盤と最終ラインが距離を保って圧縮し、シティの“中盤で前を向く受け手”を消しました。
攻撃への切り替えでは、両翼(アマド・ディアロ/パトリック・ドルグ)が一気に高い位置へ走り、ブルーノとムベウモが即座に前進の基準点になります。 形としては4-2-4、さらに後方の押し上げを伴うと3-3-4のような前重心のカウンター配置が発生し、少ない手数で相手の帰陣前に勝負を終わらせる構造でした。
| 局面 | ユナイテッドの形 | 狙い | シティへの効き方 |
|---|---|---|---|
| 守備(基本) | 4-4-2(ブルーノ+ムベウモが先頭) | 中央閉鎖+縦パス遮断 | 3-2-5の“縦の入口”が詰まり横回しが増加 |
| 守備(押し込まれた時) | 5〜6バック化(最大6-3-1) | ゴール前スペースの完全消去 | パスコース/裏抜けが消え、クロスも跳ね返される |
| 攻撃(奪取直後) | 4-2-4/3-3-4的カウンター | 数秒でフィニッシュ | 3-1-6の背後が露出し、戻り切れない |
3. ブルーノ・フェルナンデス:司令塔+ファーストディフェンダーの二重機能
ブルーノはトップ下として“残る”と“出る”の判断を握り、攻守のスイッチ役になりました。 守備ではムベウモと並ぶ形で前線の基準点になり、ボールホルダーに寄せながらパスコースを制限。 攻撃では奪った瞬間に縦方向へ身体を向け、1本で局面をひっくり返す「縦刺し」の起点を担います。
先制点(65分)はその象徴で、ブルーノの奪取→前向きの一手→ムベウモの抜け出し→フィニッシュが一直線で繋がりました。 “守れているから攻められる”ではなく、“奪い方そのものが攻撃の起点になる”設計で、ブルーノが最も価値を発揮した試合でした。
4. ユナイテッドの守備ブロック:6-3-1まで落としてでもスペースを消す合理性
ユナイテッドは4-4-2ミドルブロックを基準にしつつ、シティが前線人数を増やして押し込む局面では、 ウイングも最終ラインへ吸収して6バック化(最大6-3-1)まで採用しました。 重要なのは「最終ライン人数を増やす」ことではなく、「ペナルティエリア前の通路(中と外)を同時に潰す」ことです。
密集を作ったことで、シティの“縦の差し込み”も“裏抜け”も成立せず、最後は放り込みの比率が上がる。 しかし空中戦とセカンド回収でユナイテッドが優位に立ち、ハーランドに決定的仕事をさせないまま時間を進めました。
5. トランジション(攻守切替)が2得点に直結したメカニズム
この試合の勝敗を分けた最重要要素は、ボール保持ではなく「切替の質」です。 ユナイテッドは奪取後にブルーノとムベウモへ即預け、アマドとドルグが追い越して前線に人数を供給。 少ないパスで“帰陣前の相手”を突くショートカウンターを徹底しました。
| 得点 | 起点 | 前進のルート | 戦術的ポイント |
|---|---|---|---|
| 1点目(65分) | 自陣での奪取 | ブルーノの縦刺し→ムベウモが背後へ | 奪った瞬間に“前向き”で刺し、数秒で完結 |
| 2点目(76分) | 撥ね返しからの再奪取 | 右の前進→クーニャのクロス→ドルグ | 前線の人数確保とファー侵入でフィニッシュを作る |
6. シティの保持戦術:3-2-5/3-1-6の“過密”が逆に詰まりを生む
シティはビルドアップでリコ・ルイスを内側へ絞らせ、ロドリと並べる3-2-5を形成。 後半は前線に6人を並べる3-1-6まで踏み込み、ユナイテッドのブロック破壊を狙いました。 ただしユナイテッドが最終ラインを6枚に増やして“6対6”を作る局面が増え、狭いエリアでパスコースも裏のスペースも消滅。
結果として、ポゼッションは「前進のため」ではなく「停滞のため」になり、セットプレー以外の決定機が激減しました。 さらに3-1-6はロドリに過剰な負荷を集中させ、奪われた瞬間に中盤が空白化。 ユナイテッドにとっては“最も走りやすいカウンター環境”が出現し、2失点の構造的背景になりました。
7. 試合展開のハイライト:修正の方向性と決定機の差
| 時間帯 | 主な出来事 | 戦術的含意 |
|---|---|---|
| 前半 | シティ保持優位も、決定機は限定的/ユナイテッドは奪取から速攻 | ブロック+縦刺しでユナイテッドが“実効支配” |
| 後半序盤 | シティが交代で活性化を試みるが、決定機は決め切れず | 押し込んでも“入口”が開かないと得点に繋がらない |
| 65分 | ユナイテッド先制(ブルーノ→ムベウモ) | トランジションの質がスコアを動かす |
| 76分 | ユナイテッド追加点(クーニャ→ドルグ) | 相手が前掛かりになるほどカウンターの価値が増大 |
| 終盤 | シティが攻撃的交代も崩し切れず/ユナイテッドは締めに入る | “ボール保持”より“ゴール前の解決策”が重要 |
8. 結論:明暗を分けたのは「トランジション」と「守備の合理性」
このダービーは、両監督の設計思想がはっきり可視化された試合でした。 キャリック暫定監督のユナイテッドは、堅牢なブロックでシティの“縦の入口”を閉じ、奪った瞬間に縦へ刺して勝負を決めるという最短距離の勝ち筋を選択。 一方、グアルディオラのシティは保持を高めても崩しの最終解が不足し、さらに前掛かりになるほどカウンター耐性が低下して失点に直結しました。
支配率は必ずしも試合支配を意味しません。重要なのは、奪った瞬間に相手の構造的弱点へ到達できるか(トランジション)、 そして押し込まれた局面でスペースを消し切れるか(守備ブロックの合理性)です。 キャリック体制の初陣は、その2点において“完成度の高い勝ち方”を提示した試合でした。