広背筋(こうはいきん)の基礎知識とトレーニング・ケア方法

投稿日:2025年11月24日  カテゴリー:骨格筋

広背筋(こうはいきん)の基礎知識とトレーニング・ケア方法

広背筋は、背中の下部〜側面を大きく覆う筋肉で、逆三角形のシルエットや「男らしい背中」「引き締まった背中」をつくるうえで欠かせない筋肉です。見た目だけでなく、物を引き寄せる動きや姿勢の安定にも重要な役割を持っています。このページでは、広背筋の位置・働きからトレーニング種目、ストレッチやケア方法までをわかりやすく解説します。

1. 広背筋の基本情報

1-1. 広背筋の位置と構造

広背筋は、背中の下部〜側面にかけて広がる大きな筋肉で、腰のあたりから脇の下を通り、上腕骨(じょうわんこつ:二の腕の骨)の前側につきます。背骨・骨盤・肋骨から始まり、脇の下を通って腕の骨に付着しているイメージです。

イメージしやすいように、広背筋をざっくり3つのエリアに分けてみます。

部位 おおまかな場所 主な役割
上部 肩甲骨(けんこうこつ)近く〜脇の下あたり 腕を引き下ろす、肩周りの安定に関わる
中部 背中の真ん中あたり 腕を身体に近づける、引く動作全般をサポートする
下部 腰の少し上〜脇腹にかけて 姿勢の安定、骨盤と上半身をつなげて支える

1-2. 広背筋の主な働き

  • 腕を後ろに引く動き(肩関節の伸展):例)物を手前に引き寄せる、ロープを引っ張る
  • 腕を身体の側面から内側へ引き寄せる動き(肩関節の内転):例)懸垂で身体をバーに近づける動き
  • 腕を内側にねじる動き(肩関節の内旋):例)泳ぎのクロールで水をかく動作の一部
  • 背中〜体幹の安定:姿勢をまっすぐに保つ、腰まわりを支える

1-3. 関連する日常動作の例

  • 高い場所にある物をつかんで手前に引き寄せる動き
  • カーテンやブラインドを引き下ろす動き
  • 重い荷物を床から胸の方に引きつける動き
  • 水泳のクロールやバタフライで水を強くかく動作

このように、広背筋は「引く」「引き下ろす」動作の中心となる筋肉で、スポーツ全般でもとても重要な役割を担っています。

2. 広背筋の代表的な筋力トレーニング種目

ここでは、初級(自重・チューブ)〜上級(ダンベル・バーベル・自重高負荷)まで、代表的な広背筋トレーニングを紹介します。すべての種目で共通するポイントは、「腕で引く」というより肘で引くイメージを持つことです。

2-1. 初級レベル(自重・チューブ)

① チューブ・ラットプル(チューブを使った引き下ろし)

スポーツクラブのラットプルダウンマシンを、チューブで再現したような種目です。

  • ドアの上部などにトレーニングチューブを固定する
  • 両手でチューブをつかみ、腕を伸ばした位置からスタート
  • 胸を張り、肘をわき腹に向かって引き下ろす
  • 広背筋が縮む感覚を意識しながら、ゆっくり元に戻す

ポイント:肩をすくめず、耳と肩の距離をあけるイメージで行うと背中に入りやすくなります。

② テーブルロー(机を使ったインバーテッドロー)

自宅のしっかりしたテーブルを使えば、簡易的なローイング種目ができます。

  • テーブルの下にもぐり、縁を両手で握る
  • 身体をまっすぐに伸ばし、かかとを床についてスタート
  • 肩甲骨を寄せながら、胸をテーブルの裏に近づけるように身体を引き上げる
  • ゆっくり元の姿勢に戻る

注意:テーブルの強度をよく確認し、安全に行える環境で実施してください。

2-2. 中級レベル(ダンベル・マシン)

③ ワンハンド・ダンベルローイング

広背筋トレーニングの基本種目のひとつです。片側ずつ行うため、フォームを意識しやすいのが特徴です。

  • ベンチに片膝と同じ側の手をつき、もう一方の手でダンベルを持つ
  • 背筋をまっすぐに保ち、ダンベルを腕を伸ばした位置からスタート
  • 肘を腰の方に引き寄せるイメージで、ダンベルを引き上げる
  • ゆっくりと元の位置まで下ろす

ポイント:ダンベルを「持ち上げる」のではなく、「肘で引く」イメージにすると広背筋に効きやすくなります。

④ ラットプルダウン(マシン)

スポーツクラブでよく見かける、バーを上から引き下ろすマシン種目です。

  • バーを肩幅よりやや広めに持ち、腕を伸ばしてスタート
  • 胸を張り、肘をわき腹の方向に引き下ろしてバーを鎖骨〜上胸あたりまで近づける
  • コントロールしながらゆっくり元に戻す

ポイント:バーを身体の前側に引き下ろす。後ろ(首の後ろ)に引くやり方は肩への負担が大きくなるため、基本的にはおすすめしません。

2-3. 上級レベル(自重高負荷・バーベル)

⑤ チンニング(懸垂)

自重で広背筋を強く鍛えられる王道種目です。

  • 肩幅よりやや広めにバーを握り、腕を伸ばした状態でぶら下がる
  • 胸をバーに近づけるイメージで身体を引き上げる
  • あごがバーの高さにくる程度まで上がったら、ゆっくり下ろす

難しい場合:足を台に乗せて補助したり、チューブを使ったアシスト付き懸垂から始めるとよいです。

⑥ バーベル・ベントオーバーローイング

高負荷で広背筋や背中全体を鍛えられる種目です。フォームが崩れると腰を痛めやすいので、注意が必要です。

  • バーベルを肩幅程度の手幅で握る
  • 膝を軽く曲げ、股関節から上体を前傾させる(背筋はまっすぐのまま)
  • 腕を伸ばした位置から、肘を後ろに引くようにしてバーベルをお腹あたりまで引き寄せる
  • 背中を丸めないように気をつけながら、ゆっくり元に戻す

ポイント:重さを追い求めすぎず、フォームを優先。腰に違和感が出たらすぐに中止します。

3. 広背筋のストレッチ・ケア方法

広背筋は面積が大きく、デスクワークやスマホ操作などで硬くなりやすい筋肉です。トレーニング後だけでなく、日常的なストレッチとケアで柔軟性を保つことが、肩こりや腰痛の予防にもつながります。

3-1. 静的ストレッチ(スタティックストレッチ)

筋肉をゆっくり伸ばし、20〜30秒キープするストレッチです。トレーニング後のクールダウンに適しています。

① 片腕オーバーヘッド・ラットストレッチ

  • 立位または椅子に座った状態で、伸ばしたい側の腕を頭上にまっすぐ上げる
  • 反対の手で上げた手首をつかみ、身体を反対側にゆっくり倒していく
  • 脇の下〜背中の横あたりが伸びている感覚を確認し、そのまま20〜30秒キープ

ポイント:腰を反らせすぎず、呼吸を止めない。痛みが強くなるほど無理に伸ばさない。

② 壁・柱を使った広背筋ストレッチ

  • 壁や柱に向かい、両手を肩より少し高い位置に置く
  • 一歩後ろに下がり、お尻を軽く後ろに引きながら、胸を床の方に近づけていく
  • 背中の横〜脇の下にかけて伸びを感じたところで20〜30秒キープ

3-2. 動的ストレッチ(ダイナミックストレッチ)

トレーニング前やスポーツ前に行う、動きを伴うストレッチです。筋肉と関節を温めて、動きやすくします。

① アームスイング(前後振り)

  • 肩の力を抜き、両腕を前後に大きく振る
  • 最初は小さく、徐々に振り幅を大きくしていく
  • 10〜20回程度行い、肩〜背中の血流を高める

② キャット&カウ(四つんばい背骨エクササイズ)

  • 四つんばいになり、肩の下に手、股関節の下に膝を置く
  • 息を吐きながら背中を丸め、目線をおへそに向ける(キャット)
  • 息を吸いながら背中を反らせ、胸を前に突き出して目線を少し上げる(カウ)
  • この動きを10回ほど繰り返し、背中全体をほぐす

広背筋だけでなく、背骨の動きが良くなることで、トレーニング時のフォームも安定しやすくなります。

3-3. セルフマッサージ・ケア

フォームローラーやテニスボールを使うと、自分で広背筋まわりをほぐすことができます。

  • 床にフォームローラーを置き、広背筋(脇の下から背中の横あたり)をローラーに乗せる
  • 体重を適度にかけながら、前後に転がしてコリが強い部分を探す
  • 特に硬いポイントは、呼吸を止めないようにしながら30秒ほどキープしてほぐす
  • テニスボールを使う場合は、壁と身体の間にボールを挟んで同様に行う

注意:痛みが強すぎるほど押さえつけないこと。翌日に強い筋肉痛や違和感が残るようであれば、圧の強さを調整しましょう。

広背筋は、トレーニングでしっかり刺激を与え、ストレッチとケアで回復させることで、背中のラインが整い、姿勢やパフォーマンスの向上にもつながります。

広背筋は「引く動作」と「背中のシルエット」を決める重要な筋肉です。無理のない範囲でトレーニングとケアを継続し、強く・しなやかな背中づくりを目指していきましょう。