上腕三頭筋(じょうわんさんとうきん)の基礎知識とトレーニング・ストレッチ
二の腕のうしろ側にある「押す動き」の主役が上腕三頭筋です。ここでは、位置や働きからトレーニング、ストレッチまでをわかりやすく解説します。
1. 筋肉の基本情報
1-1. 位置と構造
上腕三頭筋は、腕のうしろ側(上腕の後面)全体をおおう大きな筋肉です。
「三頭筋」という名前のとおり、
長頭(ちょうとう)・外側頭(がいそくとう)・内側頭(ないそくとう)という
3つの部分からできています。
- 長頭:肩甲骨(けんこうこつ:肩の骨)の下の方からはじまり、ひじの骨(尺骨:しゃっこつ)の先に付きます。
- 外側頭:上腕骨(じょうわんこつ:二の腕の骨)の外側うしろからはじまり、ひじの骨に合流します。
- 内側頭:上腕骨の内側うしろからはじまり、同じくひじの骨に合流します。
3つの頭はひじのうしろで1本の太い腱(けん:筋肉と骨をつなぐヒモのような組織)になり、 尺骨(しゃっこつ)の肘頭(ちゅうとう:ひじの出っ張り)に付きます。
1-2. 主な働き
| 働き | 内容 |
|---|---|
| 肘関節の伸展(しんてん) | ひじをまっすぐ伸ばす動きの主役。腕立て伏せで体を押し上げるときなど。 |
| 肩関節の伸展・内転(ないてん)補助 | 長頭は肩甲骨から始まるため、腕を後ろに引く・からだに引き寄せる動きを少し助けます。 |
| 肘の安定 | ものを書く・パソコン作業など、肘を軽く曲げた状態でキープするときに、 ひじを安定させる役割もあります。 |
1-3. 関連する日常動作
- ドアを押して開けるとき
- 床やイスから腕で体を押し上げるとき
- ペットボトルを前に押し出すように渡すとき
- 買い物カートを前に押すとき
- 腕立て伏せやベンチプレスなど「押す系」トレーニング全般
2. 上腕三頭筋の代表的な筋力トレーニング種目
ここでは「自重トレーニング → ダンベル種目 → 高重量種目」の順に、初級〜上級まで紹介します。
2-1. 初級編(器具なし・軽い負荷)
① ベンチディップス(椅子ディップス)
目的:自分の体重を使って上腕三頭筋を鍛える基本種目。
- 安定した椅子やベンチに、両手を肩幅くらいではばをあけて置きます。
- 足を前に伸ばし、お尻を椅子から少し前に出します。
- ひじを曲げて、体をゆっくり下げます(ひじが90度くらいまで)。
- 上腕三頭筋で体を押し上げるように元の位置に戻ります。
ポイント:肩をすくめない・ひじを後ろに曲げるイメージで行うと、二の腕に入りやすくなります。
② ナロープッシュアップ(手幅を狭くした腕立て伏せ)
目的:胸だけでなく、上腕三頭筋に負荷を集中させる腕立て伏せ。
- 手を肩幅よりせまく(親指と親指が軽く触れるくらい)床につきます。
- 体を一直線にキープしたまま、ひじを曲げて胸を床に近づけます。
- 上腕三頭筋で体を押し上げるように戻ります。
ポイント:ひじを横ではなく、やや体側に沿わせると三頭筋に効きやすくなります。
2-2. 中級編(ダンベル・チューブを使う)
③ ダンベルキックバック
目的:上腕三頭筋をピンポイントで意識しやすい種目。
- 片手にダンベルを持ち、反対側の手とひざをベンチにつき、上体を前に倒します。
- ダンベルを持った腕の上腕(肩からひじ)を床と平行くらいまで上げて固定します。
- そこからひじを伸ばして後ろに蹴り出すようにダンベルを動かします。
- ゆっくり元の位置に戻し、くり返します。
ポイント:動かすのは「ひじから先」だけ。上腕がぶれないように意識しましょう。
④ オーバーヘッドトライセプスエクステンション(頭上トライセプス)
目的:長頭をしっかりストレッチしながら鍛えられる種目。
- ダンベルを両手で持ち、頭の上にまっすぐ持ち上げます。
- ひじを曲げて、ダンベルを頭のうしろにゆっくり下ろします。
- 上腕三頭筋を意識して、ひじを伸ばしながら元の位置に戻します。
ポイント:ひじが横にひらきすぎないように、少し内側にキュッと寄せておくと安全です。
2-3. 上級編(高重量・複合種目)
⑤ クローズグリップベンチプレス
目的:ベンチプレスのバリエーションで、上腕三頭筋に高い負荷をかける種目。
- ベンチに仰向けになり、バーベルを肩幅〜それより少し狭いくらいで握ります。
- 胸の中央あたりに向けてバーベルをおろします。
- 上腕三頭筋で押し返すように、バーベルをまっすぐ上に持ち上げます。
ポイント:手幅を狭くしすぎると手首を痛めやすいので、肩幅より少し狭い程度がおすすめです。
⑥ パラレルバーディップス(自体重ディップス)
目的:自体重〜それ以上の負荷をかけられる上級者向けの種目。
- ディップススタンドのバーを両手でつかみ、腕を伸ばして体を持ち上げます。
- ひじを曲げて体をゆっくり下ろします(ひじが90度前後まで)。
- 上腕三頭筋と胸・肩の力で体を押し上げて元の位置に戻ります。
ポイント:三頭筋を狙うときは、上体をあまり倒しすぎず、やや立て気味に保つとよいです。
3. 上腕三頭筋のストレッチとケア
トレーニングだけでなく、ストレッチやケアを行うことで、ケガの予防や回復のサポートになります。
3-1. 静的ストレッチ(ゆっくり伸ばすストレッチ)
① 頭上での三頭筋ストレッチ
やり方:
- 片方の腕を頭の上にあげ、ひじを曲げて手を背中側に回します。
- 反対の手で、曲げた腕のひじをつかみます。
- そのまま、ひじを軽く後ろに引き、二の腕のうしろ側が気持ちよく伸びるところで20〜30秒キープします。
- 左右を入れ替えて同じように行います。
ポイント:腰をそらさないように、お腹にも軽く力を入れましょう。痛みが出るほど強く引っ張らないことが大切です。
② 壁を使った三頭筋ストレッチ
やり方:
- 壁に向かって立ち、片方の手のひらを壁につきます。
- ひじを肩より少し高い位置に曲げ、手のひらは頭の上あたりの壁につけます。
- 上体をすこし前に倒していくと、二の腕のうしろ側が伸びてきます。
- 20〜30秒キープし、左右を入れ替えます。
3-2. 動的ストレッチ(準備運動向け)
③ アームサークル(肘伸展を意識した腕回し)
目的:肩〜上腕三頭筋を軽く温めるウォーミングアップ。
- 腕を横に広げ、ひじをしっかり伸ばしたままにします。
- 小さな円を描くように、前回し・後ろ回しをそれぞれ10〜20回ずつ行います。
- ひじが曲がらない範囲で、上腕三頭筋に軽くテンションを感じる程度に行いましょう。
④ プッシュアップの可動域ウォームアップ
目的:上腕三頭筋と肩・胸を同時に温める動的ストレッチ。
- ひざつきの腕立て伏せの姿勢になります。
- 完全な腕立て伏せよりも浅く、半分くらいの可動域でゆっくり上下します。
- 10〜15回ほど行い、少しずつ深さを増やしていきます。
ポイント:ストレッチ目的なので、反動をつけずにスムーズなリズムで行いましょう。
3-3. セルフマッサージ・ケア
⑤ 二の腕うしろのほぐし(フォームローラーや手でのマッサージ)
やり方(手で行う場合):
- 反対の手の指で、二の腕のうしろ側(上腕三頭筋)を軽くつまむように押さえます。
- 肩に近い方からひじの方へ、少しずつ場所を変えながら、気持ちよい強さでほぐします。
- 1〜2分程度を目安に行い、左右ともケアします。
やり方(フォームローラー):
- 横向きに寝て、フォームローラーを二の腕のうしろ側に当てます。
- 体重を少し乗せて、肩〜ひじにかけてゆっくり転がします。
- 痛気持ちいい程度の圧で、30〜60秒ほど行います。
ポイント:ゴリゴリ強くやりすぎると、逆に筋肉がこわばることがあります。痛みが強い場合は強度を下げましょう。
3-4. ケガ予防のための注意点
- トレーニング前は動的ストレッチ(準備運動)を中心に行う。
- トレーニング後やお風呂あとは静的ストレッチでゆっくり伸ばす。
- 急に高重量を扱わず、少しずつ負荷を上げていく。
- ひじに鋭い痛みを感じたら、無理に続けず休む・専門家に相談する。