僧帽筋(そうぼうきん)の基礎知識とトレーニング・ケア方法
僧帽筋は、首の付け根から肩、背中の上部〜中部にかけて広がる大きな筋肉です。肩こりとの関係が深い一方で、正しいトレーニングとケアを行うことで、首・肩まわりの安定や姿勢改善にも大きく貢献します。このページでは、僧帽筋の役割からトレーニング種目、ストレッチやケア方法までをわかりやすく解説します。
1. 僧帽筋の基本情報
1-1. 僧帽筋の位置と構造
僧帽筋は、後頭部(こうとうぶ:頭の後ろ)から首、肩、背中の真ん中あたりまでを大きく覆う筋肉で、上から見ると左右で台形(だいけい)のような形をしています。
機能をイメージしやすいように、一般的には次の3つに分けて考えます。
| 部位 | おおまかな場所 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 上部僧帽筋 | 首の付け根〜肩の上あたり | 肩をすくめる、首を後ろに反らす・横に倒す |
| 中部僧帽筋 | 肩甲骨(けんこうこつ)の内側周辺 | 肩甲骨を内側に寄せる(肩を後ろに引く) |
| 下部僧帽筋 | 肩甲骨の下〜背中の中部 | 肩甲骨を下げる、背筋をまっすぐ保つ |
1-2. 僧帽筋の主な働き
- 肩を上げる・下げる動き:上部は肩をすくめる、下部は肩を引き下げる働きがあります。
- 肩甲骨を内側に寄せる動き:中部僧帽筋が、肩甲骨を背骨側に引き寄せます。姿勢の安定に重要です。
- 首を支える・動かす働き:首を後ろに反らしたり、左右に倒したり回したりする動きの補助をします。
- 姿勢を保つ働き:背中の上部を支え、猫背を防ぐうえで重要な役割を担います。
1-3. 関連する日常動作の例
- 重い荷物を肩にかつぐ動き(肩の安定)
- 「やれやれ…」というように肩をすくめるしぐさ
- 姿勢を正して胸を張る・肩を後ろに引く動き
- パソコン作業などで長時間同じ姿勢をとるときの頭と首の支え
僧帽筋がうまく働かない・硬くなりすぎると、首こり・肩こり・頭痛などにつながりやすくなります。
2. 僧帽筋の代表的な筋力トレーニング種目
ここでは、初級(自重・軽いダンベル)〜上級(バーベル・自重高負荷)までの代表的な僧帽筋トレーニングを紹介します。ポイントは「どの部位の僧帽筋を狙うか」を意識することです。
2-1. 初級レベル(自重・軽負荷)
① ショルダーシュラッグ(立位・軽いダンベル)
上部僧帽筋を狙った基本種目です。肩こり予防にも役立ちますが、やりすぎると逆に張りやすくなるので適度に行います。
- 両手に軽めのダンベルまたはペットボトルを持ち、腕を体の横に下ろす
- 肩をすくめるように、耳に近づけるイメージでまっすぐ引き上げる
- 一瞬キープしてから、ゆっくりと肩を下ろす
ポイント:首を前に突き出したり、肩を回す動きは入れず、まっすぐ上下に動かすことを意識します。
② スキャプション・リトラクション(肩甲骨寄せエクササイズ)
中部〜下部僧帽筋を目覚めさせる「動きづくり」のような種目です。
- 椅子に座るか立位で、両腕を前に伸ばす
- 肩をすくめないように注意しながら、肩甲骨を背骨に向かって寄せる(胸を張る)
- そのまま2〜3秒キープし、力を抜いて戻す
ポイント:腕を引くのではなく、「肩甲骨どうしを近づける」意識で行います。
2-2. 中級レベル(ダンベル・マシン)
③ ダンベル・ベントオーバーリアレイズ
僧帽筋中部〜下部と後部三角筋(肩の後ろ側)を鍛える種目です。
- 軽めのダンベルを両手に持ち、膝を軽く曲げて上体を前傾させる
- 腕を下に垂らした位置からスタートし、肘を軽く曲げたまま両腕を左右に広げる
- 肩甲骨を寄せながら、ダンベルを肩の高さくらいまで引き上げる
- ゆっくり元の位置まで下ろす
ポイント:重さよりフォームを優先。腰を反らせすぎず、背中をまっすぐに保ちます。
④ ケーブル・フェイスプル
中部〜下部僧帽筋と肩まわりの安定筋を強化する、非常に有効な種目です。
- ケーブルマシンのロープハンドルを顔の高さにセットする
- 両手でロープを持ち、腕を伸ばした位置からスタート
- 肘を外側に開きながら、ロープを顔の方に引き寄せる(目〜鼻の高さを狙う)
- 肩甲骨をしっかり寄せたら、一瞬キープしてゆっくり戻す
ポイント:肩をすくめないようにし、「肩甲骨を下げながら寄せる」イメージで行います。
2-3. 上級レベル(バーベル・自重高負荷)
⑤ バーベルシュラッグ
上部僧帽筋を高負荷で鍛える種目です。
- バーベルを両手で握り、太ももの前あたりに下ろした位置からスタート
- 肩をすくめるようにして、バーベルをまっすぐ上に引き上げる
- 一瞬キープしてから、ゆっくりと肩を下ろす
注意:重さを追いすぎると首や肩の張りが強くなりやすいため、頻度とボリュームをコントロールすることが大切です。
⑥ インバーテッドロー(自重ローイング)
バーにぶら下がり、身体を引き上げる自重トレーニングで、中部僧帽筋と広背筋を同時に鍛えます。
- スミスマシンやラックにバーをセットし、その下に仰向けになるように位置取る
- バーを肩幅よりやや広めに握り、かかとを床につけて身体を一直線に保つ
- 肩甲骨を寄せながら、胸をバーに近づけるように身体を引き上げる
- ゆっくりと元の位置まで下ろす
ポイント:バーの高さを調整することで難易度を変えられます。低くするほど負荷が上がります。
3. 僧帽筋のストレッチ・ケア方法
僧帽筋は、長時間のデスクワーク・スマホ操作・ストレスなどで緊張しやすく、肩こりとも関係が深い筋肉です。トレーニングと同じくらい、ストレッチやケアが重要です。
3-1. 静的ストレッチ(スタティックストレッチ)
筋肉をゆっくり伸ばし、20〜30秒キープするストレッチです。トレーニング後や仕事の合間のリセットに適しています。
① 上部僧帽筋ストレッチ(首の横伸ばし)
- 椅子に座るか立位で、背筋を伸ばす
- 伸ばしたい側とは反対の手で頭の横をそっと押さえ、耳を肩に近づけるように首を倒す
- 首の横〜肩の上あたりが伸びている感覚で20〜30秒キープ
ポイント:力いっぱい引っ張らず、「重みを乗せる」程度でOK。呼吸を止めないようにします。
② 中部〜下部僧帽筋ストレッチ(背中の上部を丸める)
- 両手を前で組み、手の甲を前に押し出すようにする
- 背中の上部を丸めながら、肩甲骨の間を開くイメージで腕を前に伸ばす
- 頭を軽く下げ、首の後ろ〜背中の上部が伸びているところで20〜30秒キープ
3-2. 動的ストレッチ(ダイナミックストレッチ)
トレーニング前やウォームアップに行う、動きを伴うストレッチです。
① ショルダーロール(肩回し)
- 両肩に力を入れず、リラックスして立つ
- 肩を前→上→後ろ→下と大きな円を描くように10回ほど回す
- 同じように、逆回し(後ろ→上→前→下)も10回行う
② スキャプラ・プッシュアップ(肩甲骨プッシュアップ)
僧帽筋と肩甲骨まわりを動的にほぐしながら、安定性も高める種目です。
- 腕立て伏せの姿勢をとり、肘は伸ばしたままにする
- 肩甲骨を内側に寄せるようにして胸を床側に落とす(腕は曲げない)
- 今度は床を押して、肩甲骨を外側に開きながら背中を軽く丸める
- この動きを10〜15回繰り返す
ポイント:動くのは肩甲骨だけで、肘は常に伸ばしたまま。小さな可動域から始めてOKです。
3-3. セルフマッサージ・ケア
フォームローラーやテニスボールを使ったセルフケアも、僧帽筋の緊張を和らげるのに有効です。
- テニスボールを肩甲骨の内側〜背骨の間あたりに当て、壁にもたれかかる
- 体重を適度にかけながら、上下左右にゆっくり動いてコリの強いポイントを探す
- 特に硬い部分は30秒ほどキープし、深呼吸しながらほぐす
- フォームローラーを床に置き、背中の上部を乗せてゴロゴロ転がすのも効果的
注意:骨の上を強く押しつけたり、痛みが鋭くなるほど圧をかけるのは避けましょう。
僧帽筋は「鍛える」「伸ばす」「ほぐす」のバランスがとても大切な筋肉です。トレーニングでしっかり刺激を入れつつ、日常的なストレッチとセルフケアで柔らかさと血流を保つことで、肩こり予防と姿勢改善の両方に役立ちます。