PSG悲願のCL初制覇!2024-25シーズン総括
パリ・サンジェルマン(PSG)は2024-25シーズン、クラブ史上初となるUEFAチャンピオンズリーグ(CL)制覇を成し遂げました。 ルイス・エンリケ監督(就任2年目)の下でリーグ・アン、クープ・ドゥ・フランスも制し、フランス勢として歴史的なトレブル(3冠)に到達。 これまで「スター依存」と揶揄されてきたクラブが、戦術と組織、そしてマネジメントで欧州の頂点を掴んだシーズンでした。
シーズン総括:2024-25 PSGの“勝ち筋”
| 観点 | 要点 | チームにもたらした効果 |
|---|---|---|
| 戦術(攻撃) | 4-3-3を基軸に、保持局面で3-2-5へ可変してポゼッションを支配 | 数的優位と立ち位置の優位を作り、試合を“コントロールする時間”を最大化 |
| 戦術(守備) | 相手によりハイプレスとミドルブロックを使い分け、連動と約束事を徹底 | 奪ってからの再加速(ポジティブ・トランジション)が得点機会の増加に直結 |
| 編成 | “スターの集積”から、“役割が明確なハードワーカー+若手”へ | 強度と再現性が高まり、長いシーズンでもパフォーマンスが落ちにくい構造に |
| メンタリティ | エムバペ退団後、得点と責任の分散が進み「ワンチーム」化 | 決定力不足の時期を越え、終盤に“総合力で殴れる”攻撃力へ |
| マネジメント | ローテーション、規律、若手登用のバランス | モチベーション維持と選手層の底上げが進み、決勝まで戦力を保った |
可変システムとポゼッション戦術の完成形
エンリケ監督のPSGは、就任初年度に「保持の原則」を浸透させ、2年目に可変の完成度を引き上げた印象です。 基本は4-3-3。ただしビルドアップから攻撃局面へ移ると、最終ラインの枚数調整と中盤の立ち位置で3-2-5へと変形し、 常に相手の守備ブロックの外側・内側に“受け皿”を作り続けました。
重要なのは「形」そのものではなく、形が生む目的です。すなわち、 ボールを握り続けて相手を押し込み、相手の判断ミスとズレを引き出す。 PSGはこの目的に対して、立ち位置・距離感・再循環(いったん下げてもう一度刺す)の精度がシーズン後半に一段上がりました。
また、可変へ至る過程でも試行錯誤があり、4-4-2や3-4-2-1を挟みつつ、 選手配置の工夫(たとえば若手MFをSB的に運用して中盤の数的優位を作る等)で、 “勝てる可変”へ調整していった流れは、戦術チームとしての成熟を示しています。
守備:ハイプレスとミドルブロックの使い分け、そして切り替えの速さ
今季のPSGを「保持のチーム」として語るのは正しい一方で、 勝ち切る強さの源泉は守備の設計にもありました。相手の特徴に応じて、 前から奪いに行く局面と、中央を締めて待つ局面を切り替え、試合の温度を制御。
CL決勝でのインテル戦では、相手のビルドアップに対して“合図”が入った瞬間に連動して押し上げ、 アンカーへのマンマークや二度追い、プレスバックの徹底で前進を封殺した――という描写が象徴的です。 これにより敵陣でのボール保持時間が増え、攻撃の再現性(同じ状況を何度も作る力)が高まりました。
さらに、奪った後のトランジションでは前線だけでなくインサイドハーフまで一気にスプリントし、 相手最終ラインの背後へ出ていくオプションを用意。 ポゼッションとカウンターを“両立”するのではなく、“接続”した点が、PSGの完成度です。
主力選手たちの役割と躍動
2024-25のPSGは、派手なスターの個で押し切るのではなく、各選手がタスクを理解し、戦術の歯車として機能しました。 代表的な選手の役割を整理すると、シーズンの輪郭が掴みやすくなります。
| 選手 | 主な役割 | シーズンの象徴的ポイント |
|---|---|---|
| アクラフ・ハキミ | 右SB:高い位置取り+内側への絞りで中盤の優位を補助、守備はスピードで回収 | CL決勝で先制点。攻守の切り替え局面で“走れる設計”を体現 |
| マルキーニョス | CB:ライン統率、対人対応、経験値で落ち着きを供給 | クラブの象徴として悲願のトロフィーを掲げる精神的支柱 |
| ジャンルイジ・ドンナルンマ | GK:後半戦の守護神化、決勝Tでの勝負強さ | PK戦やビッグセーブで“勝ち抜くGK”として評価を確立 |
| マヌエル・ウガルテ | DMF:刈り取り、潰し、切り替えの最初のスイッチ | 運動量と強度で中盤の安定を担保し、保持の土台を作った |
| ワレン・ザイール=エメリ | MF:状況によりIH/アンカー/右SB的運用までこなす戦術適応力 | 可変の“要所”として、立ち位置の変化で優位を作る役 |
| ウスマン・デンベレ | WG/CF:創造性に加え、後半戦はフィニッシュ局面の比重が増加 | 得点パターン拡張により、CLでの決定力不足を改善する要素に |
| デジレ・ドゥエ | FW:若手の起爆剤。スピードと得点感覚で“世代交代”を象徴 | CL決勝で2G1A(MVP級の活躍)という物語性を提供 |
ウスマン・デンベレの覚醒:新エース誕生の舞台裏
デンベレの変化は、PSGの攻撃を“怖いチーム”へ引き上げた最大要素の一つでした。 前半戦はドリブルで局面を動かす一方、得点の決定打が不足。 しかし後半戦、ゴール前での選択と実行の精度が上がり、フィニッシャーとしての顔が濃くなりました。
右ウイングからのカットイン、中央でのワンタッチ、早い振りのミドルなど、得点パターンが増えたことで、 相手は「外を切るのか」「中を閉めるのか」の二択を迫られ、守備の判断が遅れやすくなります。 さらに監督が1トップ起用を増やしたことで、背後への抜け・最終局面の回数も増加。 チーム全体の“最後の一押し”が明確になりました。
また、規律面での処分(重要試合でのメンバー外)という強烈なマネジメントも語られています。 これは「罰」だけでなく、チーム全体へ向けたメッセージであり、結果として組織の緊張感を保つ装置になりました。 処分後に復調した際、監督が最大級の称賛で復権を後押しした点は、厳しさと信頼の両立として象徴的です。
エムバペ退団の影響:喪失から結束へ
2024年夏のエムバペ退団は、PSGの“構造”を変えました。 当初は得点力不足が表面化し、内容が良くても勝ち点を落とす時期があったとされます。 しかし、その停滞が逆に、得点と責任を分散させる方向へチームを押し出しました。
スーパースター不在はマイナスになり得る一方で、PSGの場合は 「全員が攻守に働く」「走って味方を助ける」「勝ち方を共有する」という文化の強化につながった面があります。 CL決勝で多彩な得点者が並び、相手に的を絞らせない形でゴールを重ねた描写は、 “依存の脱却”を象徴するシーンとして語られました。
エンリケ流マネジメント:人心掌握と組織作り
| テーマ | 具体像 | 効いたポイント |
|---|---|---|
| ローテーション | 国内では主力を温存しつつ、若手や控えを積極起用 | シーズン終盤に疲労・故障の影響を抑え、決勝へピークを合わせる |
| 若手登用 | ティーンエイジャーも重要局面で起用し、経験値を積ませる | 一発勝負で“怖がらない選手”を増やし、チームの伸びしろを拡張 |
| 規律と信頼 | ルール違反は処分、復調すれば最大限に評価 | 組織の秩序を保ちつつ、選手の心理的安全性も担保 |
| 一体感の醸成 | 「チームは家族」という価値観を浸透 | 上下関係より“役割と貢献”が評価される文化を形成 |
苦難を乗り越えて:エンリケの哲学と家族への想い
ルイス・エンリケ監督の哲学は、戦術や勝敗だけで語り切れない“人間性”に根差しています。 2019年に最愛の娘シャナちゃんを亡くした経験は、彼の人生観・指導観に大きな影響を与えたと伝えられています。
彼は公の場で「私は不幸ではなく幸せだ」という趣旨の発言をし、 娘との時間が残したものを肯定し続けていると語られます。 この姿勢は、選手を“道具”としてではなく人格として尊重し、 失敗や困難に直面した選手にも寄り添うマネジメントへとつながっているのでしょう。
また、家族とともに基金(シャナ基金)を設立し、難病の子どもを抱える家族を支援する活動も紹介されています。 悲しみを社会的な価値へ転化する行動は、勝利の裏側にある“クラブの空気”にも影響を与え、 PSGの結束力を語るうえで外せない背景となりました。
歴史的快挙を彩った名場面
2024-25シーズンのハイライトは、CL決勝での圧巻の勝利です。 ミュンヘンでの決勝戦でPSGはインテル相手に5-0で勝利し、決勝史に残るスコアで頂点へ到達したと報じられました。
12分の先制点、20分の追加点、後半に重ねた3点――。 注目すべきは、どの得点も“偶然の一撃”ではなく、連動と配置の優位から生まれている点です。 攻撃が設計され、守備が奪い、切り替えで加速し、もう一度保持で押し込む。 PSGの完成度が最も濃く表れた90分でした。
さらに、決勝までの道のりもドラマに満ちています。 ラウンド16でのPK戦、準決勝での守護神の連続セーブ、若手の台頭――。 こうした局面で“誰か一人の物語”ではなく、“全員の物語”として勝ち上がった点が、 今季PSGの本質だったと言えます。
結び:新時代の王者として
PSGのCL初制覇は、偶然ではなく、戦術革命と組織作り、そして選手層の再設計が噛み合った結果として描かれます。 「金満クラブ」「銀河系」といった過去のイメージから脱却し、 若手主体で走れる集団へ生まれ変わったPSGは、欧州の頂点にふさわしい説得力を示しました。
そして、これはゴールではなくスタートです。 エンリケ監督が「プロジェクトは道半ば」と語ったとされるように、 連覇と持続的成功こそが次の課題になります。 “家族のように結束したPSG”がこの先どんな物語を紡ぐのか――。 新時代の王者の歩みから、引き続き目が離せません。