36年ぶり世界一!カタールW杯優勝アルゼンチン代表の戦術分析と総括
アルゼンチン代表は、2022年カタール・ワールドカップで36年ぶり3度目の優勝を成し遂げました。 リオネル・メッシという歴史的スーパースターを中心にしながらも、勝因は「メッシ頼み」ではありません。 スカローニ監督の柔軟な戦術運用、試合ごとのプラン設計、新戦力の台頭、そして苦しい局面で折れない精神力が噛み合い、 長い大会を勝ち抜く“総合力のチーム”として完成しました。
結論:アルゼンチンが世界一に辿り着いた3つの理由
| 要因 | 内容 | 試合での現れ方 |
|---|---|---|
| 柔軟性 | 相手に合わせてフォーメーションと役割を変えられる | 4-3-3/4-4-2/5-3-2(3-5-2)を使い分け、弱点を突く |
| 試合運び | 保持と速攻、守備ブロックと瞬間プレスを切り替える | 「落ち着かせる時間」と「一気に刺す時間」を意図的に作る |
| 役割分担 | メッシの自由を“組織で支える”設計 | デ・パウルのカバー、アルバレスの走力、GKマルティネスの勝負強さ |
スカローニ監督の柔軟な戦術とフォーメーションの変遷
若き指揮官スカローニの最大の特徴は、「一つの型に固執しない」ことでした。 基本は4-3-3系ですが、相手の武器・弱点・試合状況に合わせて4-4-2、そして5-3-2(3-5-2)まで使い分け、 試合ごとに最適解を探し続けたのが今大会のアルゼンチンでした。
グループリーグ初戦の敗戦を受けて、先発と中盤構成を大胆に修正した点は象徴的です。 途中から台頭したエンソ・フェルナンデス、アレクシス・マクアリステルを組み込み、 チームにエネルギーと推進力(ボールを前へ運ぶ力)を注入しました。
試合運びの巧みさ:保持と速攻、守備ブロックとプレスの切り替え
アルゼンチンは「常にポゼッション」「常にカウンター」のどちらでもなく、 試合の局面に合わせて“最適な手段”へ切り替える現実的なチームでした。
例えば、相手が中盤でボールを持ちたがるなら自陣で無理に追い過ぎず、 4-4-2や4-3-3の守備ブロックを組んで中央をコンパクトに保ち、相手の前進を遅らせます。 一方で、ボールを失った直後は素早く“カウンター・プレス”(即時奪回)を発動し、 奪い返してから一気に前へ出る。堅実さと迫力を同居させたのが強さでした。
リオネル・メッシの役割:フリーロールと精神的支柱
メッシは名目上、右WGやセカンドストライカーの位置にいても、実際は固定されません。 中盤まで下りて受ける、左右に流れて相手の守備のズレを見つける、そして最後はゴール前に顔を出す。 この“自由”がメッシの創造性を最大化し、今大会の決定的なゴールやアシストに直結しました。
守備面では、メッシが無闇に追わない時間帯がある一方、そこを他の選手が組織で補完します。 これは特別扱いというより、チーム全体の勝率を上げる合理的な設計です。 そして、初戦敗戦後にチームを落ち着かせ、団結を促した精神的リーダーシップも、 大会を通じた安定感を支えました。
キープレイヤーたちの躍動:優勝を決めた“メッシ以外”の主役
| 選手 | 役割 | 勝利への具体的貢献 |
|---|---|---|
| フリアン・アルバレス(FW) | 前線の走力と背後への飛び出し、守備のスイッチ | 相手DFを動かし、メッシが受けるスペースを確保。速攻の推進力にも |
| ロドリゴ・デ・パウル(MF) | 中盤のハードワーク、カバーリング、対人強度 | メッシが守備負荷を下げる局面でも、穴を埋め続けてバランスを維持 |
| エミリアーノ・マルティネス(GK) | 勝負所でのビッグセーブ、PK戦の強さ | ノックアウトラウンドで“落としたら終わり”の局面を救い、優勝を手繰り寄せた |
台頭した若き中盤:エンソ・フェルナンデスとマクアリステル
アルゼンチンの中盤は、大会を通して“強くなっていった”ユニットでした。 エンソは中盤の底でボールの回収と配給(縦パス、展開)を担い、試合のテンポを整えました。 マクアリステルは左インサイドハーフで推進力を出し、前進・侵入(PA内への入り)で攻撃の厚みを作りました。
ここが機能したことで、アルゼンチンは「守ってカウンターだけ」のチームではなく、 保持して試合を落ち着かせる力も手に入れました。 トーナメントの後半ほど、その価値は大きくなります。
決勝戦(vsフランス代表)を戦術的に読む
前半:狙い撃ちの左サイドと、フランスを沈黙させた守備
スカローニ監督はディ・マリアを左に起用し、フランスの左(エムバペ側)の守備負担が相対的に軽くなる点を突きました。 その結果、左サイドからの突破・侵入が増え、先制PKと追加点に繋がります。
守備面では、中盤の強度とコンパクトさでフランスの前進を止め、前半はフランスが攻撃の形を作れない時間が続きました。 ここでアルゼンチンは「前半で試合の設計図を当てた」と言えます。
後半:フランスの修正と、アルゼンチンの苦境
フランスは交代と配置変更でエムバペがより攻撃に集中できる状況を作り、 アルゼンチンは押し込まれる時間が増えました。 終盤の短時間で同点にされる展開は、疲労と流れの変化が一気に表面化した局面です。
延長・PK戦:薄氷を制した「勝負強さ」
延長ではアルゼンチンが勝ち越し、フランスが追い付く――という劇的なシーソーゲームになりました。 それでも最後にアルゼンチンが勝ち切れたのは、GKマルティネスの決定的セーブとPK戦の強さ、 そしてキッカーが最後まで冷静さを失わなかった点が大きいでしょう。
総括:36年ぶりの栄冠を掴めた“構造”
アルゼンチンの優勝は、メッシの偉大さを最大限に活かしつつ、 戦術・選手層・メンタルの三方向からチームを完成させた成果です。 初戦の敗戦という最大の揺さぶりを受けても崩れず、むしろ修正で強くなった点は、 “大会を勝ち抜くチーム”としての成熟を象徴しています。
メッシ、アルバレス、デ・パウル、エンソ、マクアリステル、そしてマルティネス。 主役が一人ではなく、局面ごとにヒーローが現れる構造こそが、 36年ぶりの世界一を現実にした最大の理由でした。