スペイン代表EURO2024制覇の背景:戦術的柔軟性と新世代の台頭を徹底分析

投稿日:2025年12月17日  カテゴリー:チーム分析

スペイン代表EURO2024制覇の背景:戦術的柔軟性と新世代の台頭を徹底分析

圧巻の7戦全勝優勝と新時代の到来

2024年夏、ルイス・デ・ラ・フエンテ監督率いるスペイン代表がUEFA EURO 2024を制し、2012年以来となる欧州王者の座に返り咲きました。 グループリーグは3戦全勝(5得点0失点)で突破し、決勝トーナメントでもドイツ(準々決勝)、フランス(準決勝)、イングランド(決勝)と強豪を連破。 さらに全7試合を90分で勝ち切る“完全優勝”で、史上最多タイとなる4度目の欧州制覇を達成しました。

黄金期(2008~2012年)から遠ざかっていたタイトルを取り戻せた背景には、戦術面での進化とチーム成熟、そして新世代タレントの台頭が同時に起きた点があります。 本記事では、デ・ラ・フエンテの戦術的柔軟性、ポゼッションとトランジションの両立、若手の躍動、そして決勝(対イングランド)の駆け引きを整理し、 スペインが頂点に立てた理由を総括します。

結論:スペインがEURO2024を制した“3つの構造”

構造 要点 大会での現れ方
戦術的柔軟性 4-3-3を軸に、4-2-3-1化や疑似3バック化で噛み合わせを外す ロドリ/ファビアンの立ち位置調整、ビルドアップでの数的優位の確保
攻守の接続 保持(遅攻)と切り替え(即時奪回)を同一設計で両立 “ゆっくり攻めて近くで奪い返す”カウンタープレスが安定して機能
新旧融合 若手の個(突破・決定力)と、後方の経験(安定・勝者のメンタリティ)が噛み合う ヤマル&ニコの両翼、ロドリ/カルバハル/GKシモンの土台

デ・ラ・フエンテ監督の柔軟な戦術と多様な布陣

デ・ラ・フエンテの基本形は4-3-3ですが、固定された“型”ではありません。 相手の守備配置やプレスの基準点に合わせて、中盤の並びを変え、4-2-3-1へ可変したり、アンカーを最終ラインへ落として疑似3バック化したりと、 ビルドアップの噛み合わせを外す設計が徹底されていました。

可変の代表例:4-3-3 → 4-2-3-1(疑似ダブルボランチ)

アンカーのロドリと左IHのファビアン・ルイスが並ぶように落ち、トップ下的な位置にペドリ(またはオルモ)が入ることで、 4-2-3-1の見え方に移行します。相手が中央を閉じてきた場合でも、ボランチが2枚になることで配球の安定性が増し、 “誰が誰を見るか”を曖昧にしてライン間の受け手を作りやすくなります。

疑似3バック化:アンカーの落としで数的優位を作る

相手が2トップ気味で最終ラインに圧力をかける場合、ロドリが最終ラインまで下りて3枚回しを作る(疑似3バック)ことで、 ビルドアップの出口を確保します。決勝でも、ロドリが前に立つ相手(フォーデン等)の監視を外すように振る舞い、 中盤で“消される”状況を自ら解除する局面が見られました。

ポゼッションとトランジションの両立:攻守に隙のないゲーム運び

今大会のスペインは、伝統のポゼッションをベースにしながらも、切り替えの強度を落としませんでした。 重要なのは、ボール保持が“速く攻めるため”ではなく、攻撃時の配置を整え、喪失時に即奪回できる距離感を保つために使われていた点です。

「ゆっくり攻める」ことで即時奪回が機能する

性急に縦へ急がず、選手間の距離と角度を保ったまま前進することで、ボールを失った瞬間に近くの選手がすぐ囲める。 これがカウンタープレス(即時奪回)の再現性を高め、相手のカウンターを“始まる前に止める”局面を増やしました。

守備ブロックの多様性:4-3-3/4-4-2の使い分け

スペインは常にハイプレス一辺倒ではなく、相手の出方に合わせて守備ブロックを使い分けました。 ペドリが前に出て4-4-2気味に圧力をかける局面もあれば、逆に中盤の相手アンカーを押さえ、 両WG(ニコ、ヤマル)がSBへ食いついて同数(3対3)を作る形もありました。 “どこで奪うか”の設計が複数用意されていたことが、大会を通じた安定の根拠です。

守護神と最終ラインの安定感が生む絶対的な安心感

攻撃の華やかさの裏で、最後尾の安定は特筆すべきポイントでした。 GKウナイ・シモンは堅実なセーブと落ち着いたビルドアップでチームの土台となり、 CBラポルテ&ル・ノルマンは対人・空中戦で大崩れせず、SBククレジャとカルバハルは攻守両面で高水準を維持しました。 大会通算失点「3」という数字は、この土台の強度を端的に示しています。

後方ユニットの役割整理

ユニット 主要人物 機能 勝利への効用
GK ウナイ・シモン 要所のセーブ+落ち着いた配給 終盤の“一発”を消し、押し込まれても崩れない
CB ラポルテ/ル・ノルマン 対人・空中戦・ライン統率 強豪相手に90分を耐える安定感
SB ククレジャ/カルバハル 幅の確保・対人守備・終盤の勝負所 攻撃の出口と守備のストッパーを両立
アンカー ロドリ ポジショニングで危険芽を摘み、配球の中心になる 中盤の安定が全体の安定になる(“負けない構造”の核)

躍動した新世代アタッカーと中盤の才能

今大会のスペインを“新時代”たらしめたのは、両翼の個の破壊力でした。 ラミン・ヤマル(右)とニコ・ウィリアムス(左)は、1対1で局面を動かせる純粋なドリブラーとして、 これまでのスペインに不足しがちだった縦の推進力と決定的な違いをもたらしました。

新世代の主役たち:役割と価値

選手 主な起用位置 強み チームにもたらしたもの
ラミン・ヤマル 右WG カットイン、左足のラストパス/シュート、局面の創造 右の起点化、サイドチェンジで守備ブロックを破る“初手”
ニコ・ウィリアムス 左WG 縦突破、加速、背後へのスプリント、仕上げの強さ 左の決定力、相手SBを下げて中央の余白を作る
ダニ・オルモ IH/トップ下/SH ライン間で受ける、スペースへ侵入、決定的仕事 ペドリ不在時も“中間地帯”の質を落とさない
ペドリ IH 立ち位置の設計、保持の安定、テンポ管理 攻撃の整理役(不在時はオルモが補完)
ファビアン・ルイス 左IH 配球、立ち位置変更、前進とフィニッシュ関与 ロドリ周辺の安定化、可変の起点

さらに、アルバロ・モラタは主将として献身性とポストプレーで前線を支え、 ミケル・オヤルサバルは決勝で途中出場から決勝点を挙げる勝負強さを示しました。 “若い矢”が刺さるだけでなく、“経験ある矢”も的を射る――この二重構造が、スペインの総合力を完成させました。

決勝 vs イングランド:ハイレベルな駆け引きを制す

決勝はスペインが2-1で勝利。スペインの保持と、イングランドの組織守備(4-4-1-1)、 そして後半の修正合戦が見どころでした。

前半:イングランドの「ロドリ封鎖」とスペインの停滞

イングランドはCB/GKに持たせること自体は許容しつつ、ビルドアップの出口(とくにロドリ)を締める設計でした。 トップ下のフォーデンがロドリへマンマーク気味に立ち、ダブルボランチがスペインのIHを監視、両翼はSBの前進を抑制。 この“基準点が明確な守備”により、前半のスペインはボール保持率の割に決定機が限られました。

後半:ロドリ交代→ダブルボランチ化が“噛み合わせ”を変えた

後半、ロドリの交代(スビメンディ投入)により、スペインはスビメンディ+ファビアンの2ボランチで4-2-3-1型へ寄せます。 これにより、前半は「フォーデンがロドリを消せば成立」していたイングランドの守備が成立しにくくなり、 オルモ(トップ下)が受けやすい状況も増えました。

先制点(47分):ヤマル→ニコで“守備ブロックの横”を裂く

右サイドでオルモが内へ動き、相手SBウォーカーが内側へ引っ張られた瞬間、 ヤマルが外でフリーになり、逆サイドへ大きな展開。 ファーで完全に空いたニコ・ウィリアムスが仕留め、スペインが先制しました。 これは陣形変化によって生まれた“受け手のズレ”を、個の質でゴールに変換した象徴的な場面です。

同点(73分):イングランドの交代策が当たる

イングランドはワトキンス、パルマー投入で前線の圧力と創造性を上げ、押し込む時間を増やします。 そしてパルマーがミドルで同点。交代選手が結果を出すという、トーナメントの“勝ち筋”を決勝でも再現しました。

決勝点(86分):ククレジャのクロス→オヤルサバルの侵入

それでもスペインは慌てず、ボール支配で試合を整え直します。 終盤、左サイド高い位置のククレジャから鋭いクロスが入り、 途中出場のオヤルサバルがゴール前へ侵入して合わせ、2-1。 “保持で整える”→“最後はゴール前に人数が入る”という攻撃の原理が、最終局面で形になりました。

スペインが頂点に立てた理由:成熟と革新の融合

スペインのEURO2024制覇は、戦術的進化×個の躍動×組織力が高次元で噛み合った結果です。 伝統のポゼッションを「守備と接続した保持」へアップデートし、切り替えの強度を維持しながら、 両翼に“1対1で局面を壊せる”若手を配置して決定力を獲得しました。

そして、ロドリやカルバハルらの経験が後方の安定を担保し、若い才能の失敗や揺れを最小化した。 新旧が噛み合ったことで、強豪相手にも90分で勝ち切れる“完成度”が生まれました。 EURO2024の優勝は、スペインが再び欧州の中心へ戻ってきたことを示すだけでなく、 この先の国際大会でも“優勝候補としての土台”を手に入れたことを意味します。

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