サッカー選手に多い「ハムストリングスの肉離れ」徹底解説:原因プレー・痛みの部位・回復期間・復帰ステップ・予防法
ハムストリングスの肉離れ(筋損傷)は、サッカーで非常に多い外傷の一つで、特にダッシュや急加速、 キックなど「高速で脚を振る/伸ばす」局面で発生しやすいのが特徴です。 再発率が高い傾向があるため、痛みが引いた=完治ではなく、復帰までの段階設計と予防が重要になります。
1. 原因となるプレー(発生しやすい局面)
ハムストリングスは「膝を曲げる」「股関節を伸ばす」という働きを持ち、走行中は特に 遊脚期の終盤(脚が前に出て着地する直前)で強い負荷を受けます。 このタイミングは筋肉が伸ばされながら力を発揮する(エキセントリック収縮)になりやすく、損傷の典型局面です。
| 原因となりやすいプレー | なぜ起こるか(負荷の特徴) | 現場で多い状況 |
|---|---|---|
| 全力ダッシュ/スプリント | 遊脚期終盤でハムが強いエキセントリック負荷を受ける | 裏抜け、カウンターの加速、追いかける局面 |
| 急加速・急減速 | 短時間で高出力が必要。筋の反応遅れや疲労で破綻しやすい | 切り返し直後の一歩目、守備の寄せ |
| ロングキック/シュート | 振り脚のスイングと膝伸展局面で張力が増える | 無理な体勢でのシュート、連続キック |
| ハイキック/ストレッチング動作 | 股関節屈曲+膝伸展で筋が強く伸ばされる | 浮き球処理、競り合いで脚を高く上げる |
| 疲労が溜まった終盤 | フォーム崩れ、神経筋制御の低下、出力低下でリスク増 | 試合終盤、連戦、暑熱環境 |
2. 典型的な痛みの部位(どこが痛くなりやすいか)
痛みは「太ももの裏(後面)」に出ますが、損傷部位は複数パターンがあります。 特にサッカーでは、外側のハム(大腿二頭筋)や、筋腱移行部(筋肉と腱の境目)に起こりやすい傾向があります。
| 痛みの部位 | 特徴 | 現場での訴え |
|---|---|---|
| 太もも裏の外側 | 大腿二頭筋の損傷が多い。スプリントで起こりやすい | 「ダッシュした瞬間にピキッ」 |
| 太もも裏の中央 | 筋腹の損傷。圧痛(押すと痛い)や張り感が出る | 「走ると張る」「踏み込むと痛い」 |
| お尻の付け根付近 | 近位部(坐骨付近)に痛み。重症化・長期化しやすいことがある | 「ストライドを伸ばすと痛い」 |
| 膝裏に近い | 遠位部に痛み。キックや減速で違和感が出ることも | 「蹴ると怖い」「減速で痛い」 |
3. 回復までの期間(目安)
回復期間は損傷の程度(軽度〜重度)と部位(筋腹か、腱に近いか)で大きく変わります。 現場では「痛みが消えたからOK」とすると再発しやすいため、期間はあくまで目安として、 機能評価(走れる・跳べる・切り返せる)とセットで判断します。
| 重症度 | 状態のイメージ | 回復目安 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 軽度 | 張り・軽い痛み。歩行は可能、腫れや内出血は軽い | 1〜2週 | ダッシュ再開のタイミングで再発しやすい |
| 中等度 | 明確な痛み、押すと強い痛み。走ると痛い | 3〜6週 | 伸張性負荷(スプリント/ストライド)で再燃しやすい |
| 重度 | 断裂に近い。内出血が強い、力が入らない | 6週〜3か月以上 | 医療評価が必須。近位部や腱付近は長引きやすい |
4. 復帰に必要なステップと注意点
復帰は「痛みゼロ」だけでは不十分で、ハムストリングスに必要な 出力・伸張性耐性・スプリント能力・疲労下での制御を段階的に戻す必要があります。 特に再発の多くは、スプリント強度の引き上げ(80〜100%)の段階で起こります。
| フェーズ | 目標 | 実施例(代表) |
|---|---|---|
| 急性期 | 痛み・炎症の管理、悪化防止 | 無理に伸ばさない。痛みのない範囲で軽い可動、歩行の質を整える |
| 回復期 | 可動域と基礎筋力の回復 | ヒップヒンジ、ブリッジ、軽いRDL、アイソメトリック(静止)収縮 |
| 再構築期 | 伸張性耐性(エキセントリック)の強化 | ノルディック系、スライダー・カール、エキセントリックRDL(段階的) |
| 走行復帰期 | ラン〜スプリントの強度を戻す | 直線ジョグ→ラン→流し(50%)→70%→80%→90%→100% |
| 競技復帰期 | 方向転換・キック・対人・疲労下の再現 | 加速減速、切り返し、ボールありスプリント、段階的な対人 |
復帰判断で特に注意すべきポイント
- スプリント強度を急に上げない:80%を超える段階でリスクが上がるため、数回〜数日単位で段階的に。
- 「張り」が出たらサイン:痛みがなくても、張りの増加は負荷過多の可能性。翌日の反応も確認。
- ストライド(歩幅)を管理:スプリントは歩数よりもストライド増大が負荷を上げやすい。
- 疲労下テスト:試合は疲労下で起こる。疲れてもフォームが崩れないかを最終確認する。
5. 予防方法(再発予防を含む)
ハムストリングス肉離れの予防は、単に「柔らかくする」ではなく、 伸張性筋力・スプリント耐性・体幹〜骨盤の制御・練習負荷の管理を組み合わせることが重要です。
| 予防の柱 | 具体策 | ポイント |
|---|---|---|
| 伸張性筋力 | ノルディック、スライダー・カール、RDLのエキセントリック | 週1〜2回を継続。痛みゼロ・質優先で漸進 |
| ヒップ主導の出力 | ヒップヒンジ、デッドリフト系、ヒップスラスト | 骨盤が前傾しすぎない。臀部とハムの協調を作る |
| 走行ドリル | Aスキップ、ハイニー、ドリル→流し→短いスプリント | フォームを作ってから速度を上げる |
| 柔軟性と可動域 | 動的ストレッチ(練習前)、静的は練習後に短時間 | 無理な長時間ストレッチで痛みを誘発しない |
| 負荷管理 | 連戦・急なスプリント量増加を避ける | 「急に100%を増やす」が最も危険。週単位で増加を管理 |
6. まとめ
ハムストリングスの肉離れは、サッカーの「スプリント・加速・キック」に直結する外傷であり、再発が多いのが最大の特徴です。 重要なのは、痛みが消える前後で止めるのではなく、伸張性耐性とスプリント強度を段階的に戻し、 最終的に疲労下でも崩れない状態まで作ることです。 予防は、ノルディック等の伸張性トレーニング、ヒップ主導の出力強化、走行ドリル、負荷管理をセットで継続してください。