シンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)を徹底解説:症状・リスク因子・復帰スケジュールと再発予防(靴・グラウンド・負荷調整)
シンスプリント(脛骨過労性骨膜炎:MTSS / Medial Tibial Stress Syndrome)は、ランニングやジャンプの反復により、脛骨(すねの骨)周辺の骨膜や付着部に過剰な牽引ストレスが繰り返し加わって生じるオーバーユース障害です。 特に、運動量の急増・硬い地面・不適切なシューズ・足部アライメント不良(過回内など)が重なると発症しやすく、放置すると疲労骨折へ移行するリスクもあります。
症状の特徴(シンスプリントの典型像)
- 痛む場所:脛骨内側(すねの内側)に沿った痛みが多い(下1/3〜中1/3に出やすい)。
- 痛みの範囲:一点ではなく、数cm以上の“面”で痛むことが多い(広く鈍い痛み)。
- 発症パターン:運動開始直後に痛く、ウォームアップで軽くなるが、運動量が増えると再び悪化する/翌日に痛みが残る。
- 圧痛:すねの内側を押すと広い範囲で痛い。
- 注意:痛みが一点に鋭く、安静でもズキズキする、ジャンプで強く響く場合は脛骨疲労骨折の可能性が上がる。
シンスプリントと疲労骨折の違い(目安)
| 項目 | シンスプリント(MTSS) | 脛骨疲労骨折(疑い含む) |
|---|---|---|
| 痛みの範囲 | 広い(数cm以上) | 一点に近い(ピンポイント) |
| 痛みの質 | 鈍い・重い | 鋭い・響く |
| 運動との関係 | 運動で増悪、休むと軽減しやすい | 休んでも痛む/増悪が強い |
| 片脚ホップ(ジャンプ) | できることもある(痛み軽〜中) | 強い痛みで困難になりやすい |
| 対応 | 負荷調整+リハビリで改善しやすい | 医療評価を優先(画像検査含む) |
リスク因子(なぜ起きるのか)
シンスプリントは「負荷(量・強度・頻度)× 受け皿(身体・環境)」の不一致で起きます。特に以下が重なると発症しやすいです。
1) トレーニング要因(負荷の急増)
- 走行距離・スプリント本数・ジャンプ回数の急増(合宿、学年が上がって練習量増、復帰直後の詰め込み)
- インターバル走、坂ダッシュ、長い移動走の増加
- 休養不足(連日高負荷、睡眠不足)
2) 身体要因(受け皿の不足)
- 足部の過回内(アーチ低下により脛骨内側へ牽引ストレスが増えやすい)
- ふくらはぎ(腓腹筋・ヒラメ筋)/ 後脛骨筋の過緊張・筋持久力不足
- 股関節外転・外旋筋(中殿筋など)の弱化による下肢アライメント崩れ
- 足関節背屈可動域の不足(硬いふくらはぎ)
- 既往歴(過去にシンスプリント経験がある)
3) 環境要因(靴・グラウンド・地面)
- 硬い路面(アスファルト、硬い人工芝)での反復走
- 摩耗したシューズ、クッション性の低下
- 自分の足に合わないラスト(幅、踵のホールド、アーチサポート不足)
- グラウンド状態の悪化(凸凹、傾斜、滑る/引っかかる)
安静〜復帰までのスケジュール(目安)
復帰は「痛みゼロでの段階的負荷」を基準に進めます。症状の程度によって期間は変動しますが、 軽症で2〜4週、中等症で4〜8週、再発例や強い痛みではさらに長くなることがあります。
| フェーズ | 期間目安 | 目的 | OK(やってよい) | NG(避ける) | 次フェーズへ進む基準 |
|---|---|---|---|---|---|
| 0:急性期(痛みを落とす) | 数日〜2週 | 炎症・過負荷の鎮静 | 痛みが出ない範囲の歩行、上半身/体幹、痛みのない筋トレ、バイク・スイム(痛みが出ない強度) | ラン、ダッシュ、ジャンプ、切り返し | 日常動作で痛みがほぼない/押しても痛みが軽い |
| 1:再導入期(衝撃を戻す準備) | 1〜2週 | 下腿の耐久性・可動域改善 | カーフレイズ(軽〜中)、後脛骨筋・足底筋の筋持久、股関節周り強化、ドリル(低衝撃) | 連日高負荷、硬い地面での反復 | 片脚カーフレイズ反復で痛みが出ない/翌日に悪化しない |
| 2:ラン再開(ウォーク&ジョグ) | 1〜3週 | ランニング衝撃の段階復帰 | 例:1分ジョグ+2分歩き×10→徐々にジョグ比率を増やす | いきなり連続20〜30分ラン、坂ダッシュ | 運動中・翌日とも痛みが0〜軽微(増悪しない) |
| 3:競技復帰(強度と方向転換) | 1〜3週 | ダッシュ・切り返し・ジャンプ再獲得 | テンポ走→短い加速→方向転換→対人の順 | 初日からフルメニュー、連日スプリント | フル練習後も痛みが再燃しない/押して痛みが戻らない |
トレーニング調整(再発させない負荷の組み方)
シンスプリントは「休めば治る」だけでなく、同じ負荷設計のままだと再発しやすいのが特徴です。 重要なのは、衝撃量(ラン・ジャンプ)を減らしつつ、心肺・筋力は落とさない調整です。
1) 走る量を“構造的に”減らす
- 練習内のランニング量を把握(移動走・アップ含む)。痛みが出る週は「走行距離・スプリント本数・ジャンプ回数」をまず減らす。
- 「連日ラン」を避け、間に低衝撃の日(バイク、スイム、下半身筋トレ中心)を挟む。
- 高強度(坂、インターバル、長い移動走)を最後に戻す。最初は平地ジョグから。
2) 代替トレーニングで心肺を維持
- バイク:インターバル(例:1分ややきつい+1分楽×10〜15)
- プール:スイム/アクアジョグ(下肢衝撃が少ない)
- ローイング:全身持久力(フォームが崩れない範囲)
3) 重点強化(下腿+股関節)
- カーフレイズ(膝伸ばし=腓腹筋、膝曲げ=ヒラメ筋)を“回数・持久”重視で。
- 後脛骨筋(足部内側アーチ支持)・足底筋群の持久力強化。
- 中殿筋・外旋筋(ニーイン抑制)で下肢アライメントを安定。
- ふくらはぎの柔軟性(足関節背屈)を確保し、過剰な牽引を減らす。
靴・インソール・グラウンドとの関連性(実務でのポイント)
1) シューズの消耗は「見た目」以上に影響する
- クッションが潰れると衝撃吸収が落ち、下腿への負担が上がる。
- アウトソールの片減りは、着地の癖(過回内など)を増幅させやすい。
- 踵のホールドが弱いと、ブレが増えて下腿内側への牽引ストレスが増えやすい。
2) スパイク/トレシューの使い分け
- 硬い人工芝+硬めのシューズは下腿負荷が上がりやすい。痛みがある時期はクッション性のあるトレシューやランシューへ寄せる。
- ポイントの高さや硬さで“突き上げ感”が強い場合、練習の一部を別シューズに変更するだけでも改善することがある。
3) インソール(足部過回内が強い場合)
- 過回内が強い選手は、アーチサポートで脛骨内側の牽引ストレスを減らせるケースがある。
- ただし「入れれば治る」ではなく、筋力・可動域・負荷設計とセットで考える。
- 違和感が強い場合は段階導入(最初は短時間)で適応させる。
4) グラウンド(硬さ・傾斜・凹凸)への対策
- 硬い地面ほど衝撃が増える。痛みがある時期は可能なら柔らかい芝・土へ。
- 傾斜のある場所で同じ方向に周回し続けると左右差が強くなる。周回方向を変える、練習場所を分散する。
- 凹凸は足部のブレを増やすため、下腿内側へのストレス増につながりやすい。
受診・精査を優先すべきサイン
- 痛みが一点に鋭く、押すとピンポイントで強い
- 安静でも痛む、夜間痛がある
- 片脚ホップで強い痛みが出る
- 練習を落としても2週間以上改善しない
シンスプリントは「負荷を落とす」だけではなく、再発しない負荷設計と足部〜股関節までの機能改善、 そして靴・地面(環境)の調整をセットで行うことで、復帰後の安定度が大きく変わります。