サッカー選手のアキレス腱炎|年齢層・プレースタイル傾向と痛みの特徴、治療(エキセントリック)・予防・負荷管理

投稿日:2025年12月24日  カテゴリー:サッカー選手に発生しやすい障害・外傷

サッカー選手のアキレス腱炎|年齢層・プレースタイル傾向と痛みの特徴、治療(エキセントリック)・予防・負荷管理

アキレス腱炎(Achilles tendinopathy)は、アキレス腱(ふくらはぎの筋群と踵骨をつなぐ腱)に生じる過負荷障害です。 サッカーでは「反復するダッシュ・切り返し・ジャンプ・スプリント後の減速」など、腱に高い張力が繰り返し加わるため発生しやすく、 痛みを我慢して継続すると慢性化しパフォーマンス低下や離脱が長引く原因になります。

発生しやすい年齢層と傾向

年齢層 起こりやすい背景 サッカーでの典型パターン
ジュニア〜高校 急な練習量増加、成長期の筋腱バランス(柔軟性低下) 新チーム移行、合宿・連戦、人工芝増加で負荷が跳ねる
大学〜社会人(20〜30代) スプリント量・試合強度の増加、筋力はあるが回復が追いつかない 週末の試合+平日強度高め、急なスパイク変更
30代後半〜 腱の回復力低下、仕事・睡眠不足など回復要因の不足 プレー頻度は少なくても「一回の強度」が高くなりやすい

発生しやすいプレースタイル・状況

要因 具体例 腱への負荷メカニズム
スプリント・加速が多い WG/SH、SBのオーバーラップ、裏抜けが多いFW 離地局面で強い底屈トルクが反復
減速・切り返しが多い 対人守備、1v1の駆け引き、細かいステップ ブレーキ動作で腱に高張力+伸張ストレス
ジャンプ・着地が多い 空中戦、CK対応、ヘディング争い 着地でエキセントリック負荷が増える
環境変化 人工芝、硬いピッチ、スパイク変更、練習量の急増 腱の許容量を超えやすい(負荷の急上昇)

痛みの部位と特徴(典型所見)

分類 痛む部位 特徴 サッカー動作で出やすい症状
中部アキレス腱障害 踵の上 2〜6cm付近 圧痛、腱の肥厚感、朝の一歩目が痛い ダッシュ開始、切り返し、つま先で踏み込む動作
付着部アキレス腱障害 踵骨付着部(踵のすぐ上) 踵周囲の痛み、靴が当たると痛いことも 深い背屈位(しゃがみ込み、下り坂)で悪化しやすい

よくある特徴として「ウォームアップで一時的に楽になるが、後半や翌日に悪化する」「朝のこわばりが強い」「腱周辺の熱感・硬さ」が挙げられます。 なお、急激な激痛・腱の陥凹・つま先立ち不能などがある場合は、腱断裂の可能性もあるため早期に医療機関で評価が必要です。

治療・予防の軸:エキセントリック運動(腱の耐性を上げる)

アキレス腱炎は「安静のみ」では再発しやすく、腱の許容量(耐えられる負荷)を段階的に高めるリハビリが重要です。 代表的な手段の一つがエキセントリック(伸張性)運動で、腱に適切な刺激を入れて耐性を上げていきます。

種目 実施方法(基本) 回数・頻度(目安) ポイント
ヒールドロップ(踵下ろし)
※中部向けの基本形
段差でつま先立ち→ゆっくり踵を下ろす(下ろし局面を重視)。
上げる局面は反対脚補助でも可。
10〜15回 × 2〜3セット
週3〜5回
下ろしは2〜4秒。痛みは「許容範囲」で管理し、翌日に悪化しない負荷に調整。
カーフレイズ(重さを追加) 痛みが落ち着いたら、両脚→片脚、ダンベル等で負荷増 6〜12回 × 3〜4セット
週2〜3回
最終的に競技復帰には「高負荷の筋力」が必要。段階的に強度を上げる。
等尺性(アイソメトリック) つま先立ち位で静止(動かさない) 30〜45秒 × 3〜5本 痛みが強い時期でも導入しやすい。疼痛コントロールの補助として有用。

付着部アキレス腱障害の場合は、段差で深く踵を下ろす(強い背屈)と刺激が強すぎることがあります。 その場合は「床上でのカーフレイズ」「段差を使わず可動域を浅く」など、背屈角度を調整して実施します。

ストレッチの考え方(やり過ぎ注意)

ストレッチは有効ですが、痛みが強い時期に強い伸張を入れ過ぎると症状が悪化する場合があります。 原則として「痛みが増えない範囲で」「短時間から」「運動後の補助」として用います。

対象 方法 目安 ポイント
腓腹筋(膝伸ばし) 壁押しで後脚膝伸ばし、踵を床へ 20〜30秒 × 2〜3回 強い痛みが出ない範囲。反動は使わない。
ヒラメ筋(膝曲げ) 壁押しで後脚膝を曲げ、踵を床へ 20〜30秒 × 2〜3回 サッカーの加速・減速に影響が大きい部位。丁寧に実施。
足底・足関節 足底筋膜のリリース、足関節背屈の軽いモビリティ 1〜3分 過度な背屈ストレッチは付着部症状を悪化させることがある。

負荷管理(再発予防の最重要ポイント)

アキレス腱炎の大半は「腱の許容量より負荷が上回る状態」が続いて発生します。 改善と再発予防には、トレーニングの量と強度をコントロールし、腱の回復を確保することが不可欠です。

チェック項目 具体例 対策
急な負荷増 週の走行量やスプリント本数が急増 増量は段階的に。高強度日は間隔を空ける。
高強度の連続 連戦、合宿、ハードなメニューが連日 回復日(低強度・非荷重)を計画的に入れる。
痛みの推移 「その日は平気だが翌朝に悪化」 翌朝の痛み・こわばりが増えるなら負荷過多。翌週は強度調整。
シューズ・路面 硬い人工芝、スパイク変更 移行期は短時間から。クッション性・ヒール高も検討。
回復要因 睡眠不足、栄養不足、体重増 睡眠、タンパク質、総摂取エネルギーを整える。

実践の組み立て例(復帰〜再発予防)

フェーズ 目標 主な内容
疼痛が強い時期 痛みの鎮静化と悪化防止 高強度走(スプリント・ジャンプ)を一時的に削減/等尺性カーフ/軽い可動域
改善期 腱の耐性を上げる エキセントリック+低〜中強度の走/ストレッチは痛みを見ながら
競技復帰期 スプリント・切り返し耐性 高負荷カーフレイズ(重り)/方向転換・加減速ドリルを段階的に再開
再発予防 許容量維持 週2回のカーフ強化を継続/負荷の急増を避け、痛みの兆候を早期に拾う

まとめ

  • アキレス腱炎はサッカーの「加速・減速・切り返し・ジャンプ」の反復で起こりやすい過負荷障害。
  • 痛みは中部(踵の上)または付着部(踵周囲)に出やすく、朝の一歩目の痛み・こわばりが典型。
  • エキセントリック運動(踵下ろし)を軸に、段階的な筋力強化で腱の許容量を高める。
  • ストレッチは痛みが増えない範囲で。特に付着部は過度な背屈ストレッチに注意。
  • 最重要は負荷管理。翌朝の痛み・こわばりの変化を指標に、強度と量を調整する。

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