小児の「肘内障」:腕が外れたように見える症状・家庭での対処・整復・再発予防のポイント
サッカーの場面でも、試合会場への移動中や公園遊び、兄弟姉妹とのじゃれ合いなどで、子どもが急に腕を動かさなくなることがあります。 その代表例が肘内障(ちゅうないしょう)です。いわゆる「肘が抜けた」「腕が外れたように見える」と表現されることが多いですが、 実際は肘関節の橈骨頭(とうこつとう)周囲の組織がずれて痛みと動かしづらさが出る状態です。 本記事では、症状の特徴、家庭での安全な対処、病院での整復、再発を防ぐ接し方を整理します。
1. 肘内障とは:なぜ小児期に起きやすいのか
肘内障は主に乳幼児〜学童低学年で見られ、腕を引っ張られた瞬間に起きやすい障害です。 小児は肘の周囲組織が柔らかく、橈骨頭を支える輪状靭帯(りんじょうじんたい)が相対的にゆるいため、 手首〜前腕が急に引かれると、靭帯が橈骨頭にひっかかるようにずれて痛みが出ます。
2. 「腕が外れたような症状」:典型的なサイン
肘内障は、骨折のような激しい腫れや変形が目立たない一方、子どもが急に腕を使わなくなるのが特徴です。 次のような反応が典型的です。
- 急に泣く、痛がる(引っ張られた直後に多い)
- 腕をだらんと下げて動かさない、抱え込む
- 肘を曲げ伸ばししたがらない
- 手のひらを上に向ける(回外)動作を嫌がることがある
- 腫れや皮下出血が少ない(※ある場合は別の怪我も疑う)
| 観察ポイント | 肘内障でよくある | 骨折などを疑うサイン(要受診) |
|---|---|---|
| 見た目の変形 | 目立たないことが多い | 明らかな変形、異常な曲がり方 |
| 腫れ・内出血 | 少ないことが多い | 腫れが強い、内出血が広がる |
| 痛みの出方 | 引っ張られた直後から動かさない | 転倒や直撃後に強い痛みが持続 |
| 指の動き・感覚 | 多くは保たれる | しびれ、指が動かしにくい |
| 触ると嫌がる部位 | 肘の周辺を嫌がるが局所圧痛は強くないことも | 一点が強烈に痛い、触るだけで強い拒否 |
3. 親が注意すべき動作:肘内障の典型的なきっかけ
肘内障は「転倒」よりも、腕を引っ張る力が瞬間的に加わることで起こりやすいのが特徴です。 日常で多いきっかけは次の通りです。
| よくある動作 | なぜ危ないか | 代替の関わり方 |
|---|---|---|
| 手をつないで急に引く(転びそうな時に強く引き上げる等) | 前腕が牽引されて肘にズレが起きやすい | 可能なら体幹(脇・胴)を支える/抱き寄せる |
| 腕を持って「ぶらんこ」遊び | 体重が腕にぶら下がり牽引力が大きい | 脇の下を支える形で持ち上げる |
| 服の袖を引っ張って急いで着替えさせる | 肘関節に急な牽引が入る | 袖ではなく肩・背中側を支える |
| 兄弟・友達が腕を引っ張って遊ぶ | 予測不能な方向に力が入る | 「腕を引っ張らない」を周囲にも共有する |
4. 家庭での対処法:基本は「無理に動かさない」
肘内障が疑われるとき、家庭で最も大切なのは無理に動かさないことです。 痛みの原因が肘内障ではなく骨折の場合、強引に動かすと悪化する可能性があります。
家庭で行うべき対応
- 安静:痛がる腕を動かさせない。抱っこや椅子に座らせて落ち着かせる。
- 固定(簡易):タオルで腕を軽く包む、三角巾があれば吊るなど「楽な位置」を保つ。
- 冷却(必要時):熱感がある場合に短時間。嫌がるなら無理に行わない。
- 受診:整復が必要なことが多い。早めに医療機関へ。
避けるべき対応
- 痛がるのに肘を曲げ伸ばしして確認する
- 「抜けたなら戻せるはず」と自己流で整復を試みる
- 腕を引っ張って反応をみる
5. 病院での整復:短時間で改善することが多い
医療機関では、問診(きっかけ・年齢・症状)と触診で肘内障が疑われれば、医師が整復(せいふく)を行います。 一般的には、前腕の向きを調整しながら肘周囲の組織のずれを戻す操作です。 整復後、すぐに痛みが軽減し、子どもが腕を使い始めるケースが多く見られます(個人差あり)。
| 項目 | 病院で行うこと | 保護者が知っておくポイント |
|---|---|---|
| 評価 | 受傷機転・症状の確認、必要に応じて画像検査 | 腫れ・変形がある場合は骨折評価も重要 |
| 整復 | 医師が手技で整復 | 短時間で終わることが多いが、痛がることもある |
| 整復後 | 動きの回復確認、必要なら一時的な固定 | すぐ使い始めても、当日は無理をさせない |
| 再発予防 | 生活上の注意点を説明 | 再発しやすい子もいるため、引っ張る動作を避ける |
6. 予防的な接し方:再発を防ぐための習慣
肘内障は一度起こすと再発することがあります。特に小児期のうちは、同じような牽引ストレスが入ると再発しやすいため、 家庭での接し方を工夫することが有効です。
再発予防の実践ポイント
- 腕(手首)を引っ張って持ち上げない:特に急いでいる時ほど注意。
- 支える場所を変える:脇の下や体幹を支える抱き方・介助にする。
- 手つなぎの工夫:急に引き上げず、子どもの動きに合わせる。転びそうな時は腕だけで止めず体ごと支える。
- 周囲に共有:祖父母、きょうだい、コーチや保護者仲間にも「腕を引っ張らない」を共有。
- 遊び方の見直し:「腕ぶらんこ」「引っ張り合い」は避ける。
7. サッカーに関わる保護者・指導者向けの注意
サッカーでは、グラウンド周辺での移動、試合後の混雑、兄弟児の遊びなどで起きることがあります。 「プレー中の外傷」だけでなく、会場の行き帰りや待ち時間の事故予防も大切です。 子どもが急に腕を使わなくなった場合、無理に動かさず、早めに医療機関で評価を受けてください。
8. まとめ
肘内障は小児期に多く、腕を引っ張られた瞬間に「腕が外れたように」動かさなくなるのが特徴です。 家庭では無理に動かさず、安静・簡易固定のうえ受診し、病院での整復で改善するケースが多い一方、 腫れや変形、強い圧痛、しびれがある場合は骨折などの可能性も考えます。 予防としては、腕(手首)を引っ張らない接し方に切り替え、周囲にも注意点を共有することが有効です。
※本記事は一般的な情報提供であり、診断・治療の代替ではありません。症状がある場合は医療機関へご相談ください。