SLベンフィカ 4-2 レアル・マドリード|トランジションとセットプレーが支配を上書きした戦術分析(CLリーグフェーズ第8節)

投稿日:2026年2月17日  カテゴリー:試合分析

SLベンフィカ 4-2 レアル・マドリード|トランジションとセットプレーが支配を上書きした戦術分析(CLリーグフェーズ第8節)

UEFAチャンピオンズリーグ(リーグフェーズ第8節/現地2026-01-28、日本時間2026-01-29)で、SLベンフィカがレアル・マドリードに4-2で勝利。本稿は試合スタッツ・タイムライン・局面評価を軸に、勝敗を分けた戦術構造(トランジション/セットプレー/ゲーム状況のリスク管理)を整理する。

エグゼクティブサマリー

本試合は、保持率・パス量で大きく上回ったレアル(67.2%/試行610本、成功率90.7%)が、失点期待値と決定機創出で上回ったベンフィカ(シュート22、枠内12、xG 2.57)に屈した「構造の勝利(トランジションとセットプレー)>支配の勝利(ポゼッション)」の典型である。

勝敗の核心(3点)

  1. ベンフィカは4-2-3-1からの“速い縦”で、レアルの保持時配置(4-3-3の前残り+SB高位)背後を一撃で突き、2得点(36’/54’)を「カウンター起点のクロス→ヘッド」で獲得。
  2. セットプレー運用(終盤のGK参加)を順位条件に基づく合理的リスクとして最適化し、90+8’にアナトリー・トルビンの決勝点(ヘディング)で“必要な1点”を取り切った。
  3. レアルは終盤の2枚の退場(90+2’/90+7’)で守備人数と集中を削り、最終局面のファウル管理→最終セットピース対応が破綻した。

監督面では、ジョゼ・モウリーニョは「勝ち筋を複線化(トランジション+セットプレー+ゲーム状況の読み)」し、アルバロ・アルベロアは保持で主導権を握りつつも、カウンター防衛(rest defense)と規律(カード管理)の脆弱性が露出した。

(注)ベンフィカ公式の試合後コメント等は、サイト側の技術的制約により本文中で一次確認できなかったため、監督・選手の発言は主にReuters等の会見引用に依拠する。

試合の前提と基礎データ

開催地はエスタディオ・ダ・ルス。ベンフィカは勝利に加え、他会場結果を含むゴール差条件を満たす必要があり、90分を越える終盤まで“あと1点”を追う局面に置かれていた。結果、3-2で迎えたラストプレー級のFKにGKが上がるという極端な終盤戦術が発生し、成功した。

タイムライン(得点・決定機・交代・カード)

分(現地表記) 事象 戦術的メモ
3’ レアル:オレリアン・チュアメニ 警告 アンカー/CB要員が早期にカード。以後の対人介入が制約に。
15’–16’ ベンフィカにPK判定→VAR介入で取り消し “ボール奪取の接触”評価が反転。序盤の心理・強度に影響。
30’ 0-1:キリアン・エムバペ(ヘッド)/アシスト:ラウル・アセンシオ レアル右→背後へのクロス。ベンフィカCB間にFWが先着。
36’ 1-1:アンドレアス・シェルデルップ(ヘッド)/A:ヴァンゲリス・パヴリディス 速攻の最終局面でクロス→ヘッド。アセンシオが足を滑らせた描写あり。
45+5’ 2-1:パヴリディス(PK) セットプレー混戦での保持・引っ張りが焦点。
54’ 3-1:シェルデルップ(右足)/A:パヴリディス 低い守備ブロック→一気に背後。rest defense不備を再度突く。
55’ レアル交代:エドゥアルド・カマヴィンガ、ロドリゴ 投入 リスク増(前線の枚数と推進力)で反撃の手を打つ。
58’ 3-2:エムバペ(右足)/A:アルダ・ギュレル ボックス外からのフィニッシュ。保持の厚みを得点に転換。
90+2’ レアル:アセンシオ 退場(2枚目) 終盤のファウル管理が破綻、セットプレー被弾確率が上昇。
90+7’ レアル:ロドリゴ 退場(2枚目) 抗議由来と報じられる。残り時間で守備隊形が崩れやすく。
90+8’ 4-2:トルビン(ヘッド)/A:フレドリク・アウルスネス 最終FKでGKを前線投入。条件達成のための合理的ハイリスクが成功。

(注)90+表記は媒体差(90+6/90+7等)あり。本表は主に実況ログと公式マッチページの一致範囲で整理した。

試合スタッツ(チーム)

指標 ベンフィカ レアル
支配率32.8%67.2%
シュート2216
枠内シュート126
xG(モデル差あり)2.571.20
パス成功率77.2%90.7%
デュエル勝率51.5%48.5%
GKセーブ47
コーナー65
退場02

(支配率・パス成功率・デュエル等はSky Sports、xGはFotMobの表示値を採用。)

フォーメーションと可変性

開始時の名目布陣は、ベンフィカが4-2-3-1、レアルが4-3-3。UEFAのタクティカルラインアップでも、ベンフィカはトルビンを背後に、2ボランチ(アウルスネス+バレイロ)とトップ下(スダコフ)、両翼(プレスタイアーニ/シェルデルップ)、1トップ(パヴリディス)の配置が確認できる。

レアルは(GKクルトワの前に)最終ライン4枚+中盤3枚+前線3枚で、ビルドアップは「アンカー(チュアメニ)を軸に保持率を確保し、ジュード・ベリンガムが中間地帯で受けて前進」という意図が読み取れる。一方で、レアル公式レポート自身が「(ベンフィカが)二枚の5人ラインで守った」局面を認めており、後半はベンフィカがリード後に極端な低ブロックへ可変したことが、明確なゲーム状態として存在した。

ゲーム状態の推移(フローチャート)

flowchart TD
  A[開始: ベンフィカ 4-2-3-1 / レアル 4-3-3] --> B[前半: レアルが保持で主導権\nベンフィカは縦速攻を保持]
  B --> C[45'+: ベンフィカが2-1で折り返し]
  C --> D[後半立ち上がり: ベンフィカが低ブロック化\n(二枚のラインでスペース遮断)]
  D --> E[54' カウンターで3-1]
  E --> F[55' レアル交代で前進圧を増加]
  F --> G[58' 3-2 / 終盤はレアルが押し込み]
  G --> H[90'+: 退場2枚→守備人数低下]
  H --> I[90+8' FK→GK参加→4-2で決着]

※後半のベンフィカ守備形(4-5-1/5-4-1/“二枚の5人ライン”)は、公式記述と試合経過からの解釈であり、固定形ではなく局面により揺れたと判断する。

前半の重要局面

前半は「レアルが保持で落ち着かせ、ベンフィカが高強度で揺さぶる」という二項対立から始まった。レアル公式レポートは、ベンフィカがキックオフ直後から“非常に高いテンポ”で入り、CKの二次攻撃で早期に決定機を作ったと記述している。

戦術的に最大の分岐点は15分前後のPK判定→取り消しである。ベリンガムの奪取が一度はPKと判定され、VARで覆ったことで、(1)審判の接触基準、(2)両チームのデュエル強度、(3)レアルのCB/アンカーのカードリスクが可視化された。チュアメニは3分に警告を受けており、守備強度の調整を迫られる前提が早い時間に形成されていた。

30分の失点(0-1)は、ベンフィカが主導していた序盤の流れに対して「レアルが幅→クロスで一撃」を示した局面である。アセンシオのクロスにエムバペがヘッドで合わせた形は、ベンフィカのSBとCB間(横ズレ)を、逆サイドへの供給で突いたと解釈できる。

しかしベンフィカは6分後、同じ“クロス→ヘッド”でも逆の文脈(速攻)で同点に戻す。Reutersは「アセンシオのスリップ(雨天)で、パヴリディスが完璧なクロスを供給し、シェルデルップがヘッド」と具体描写しており、ここにモウリーニョの「勝ち筋の複線化=保持に乗らなくても、奪った後に得点まで完結する設計」が表れている。

前半アディショナルのPK(2-1)は、チュアメニがオタメンディを引っ張ったとされる局面で発生した。重要なのは、前半の“PK取り消し”と“PK付与”が同一試合内に共存したことで、レアル側の守備者が「接触を切る」判断を難しくし、保持の優位を得点で回収する前にスコアの支配を失った点である。

後半の重要局面

後半は、ベンフィカがリード状況に合わせてブロックを下げ、レアルが押し込む構図が長く続いた。ただし、この“押し込む”状態は常に安定したものではなく、54分の3点目が象徴するように、レアルの攻撃配置が高くなるほど、ベンフィカの一撃(縦直線)に晒される状態でもあった。レアル公式は「ベンフィカが自陣に守っていたが、カウンターで3-1」と認めており、レアルのrest defenseの設計(特にトランジション直後の即時奪回と最終ラインの連携)が破れた局面といえる。

55分の交代は、アルベロアのゲームプラン変更を示す明確なサインである。カマヴィンガ投入は中盤の推進と回収力を足し、ロドリゴ投入は前線の個人突破とボックス侵入回数を増やす狙いが妥当だ(実際、Sky Sportsのデータではレアルのドリブル試行32回と高い)。

58分の3-2は、保持局面を得点に変換したレアル側の“正常化”であり、ギュレル→エムバペの連結が機能した。ここから終盤までは、レアルが押し込み、ベンフィカが耐えてカウンターの脅威を残す展開が続く。スタッツ的にも、ベンフィカは最終的に枠内12本・ビッグチャンス逸失5まで到達しており、守備一辺倒ではなく、決定機は作り続けていた。

勝負を決定づけたのは、90分以降の規律崩壊である。アセンシオ(90+2)とロドリゴ(90+7)が相次いで退場となり、レアルは最終盤に「ファウル→セットプレー→人数不足での対応」という最悪の連鎖に陥った。Reutersが記す通り、ベンフィカは“残り数秒で敗退”の状態から、FKの最終プレーでGKを上げて必要なゴールを奪い切った。

セットプレー・トランジション・プレスの評価

セットプレー:期待値最大化としての“状況最適”

セットプレーは、得点構造の観点でベンフィカが優位だった。2点目はPK、4点目はFK起点のクロスで、いずれも「保持で押し込むレアル」に対して、“止まった局面”で期待値を急上昇させる手段として機能した。特にトルビンのゴールは、(1)順位条件、(2)残り時間、(3)キッカーとターゲットの配置、(4)相手の退場でのマーク再編、が重なった“状況最適”である。

トランジション:ベンフィカの「守→攻」が決定打

トランジション(攻→守/守→攻)に関しては、ベンフィカの「守→攻」が決定的に鋭かった。Reutersとレアル公式の双方が、36分と54分の得点をカウンター文脈で描写しており、これは偶然ではなく、(a)奪取位置の割り切り、(b)縦パスの選択優先、(c)クロスを“最後の一手”にする再現性があったことを示す。

一方でレアルの「攻→守」は、押し込み時に中盤底のリスク管理(セカンドボール回収・ファウルで止める判断)が分断され、ベンフィカに“1stパスで外へ、2ndアクションでクロスへ”の逃げ道を許した。デュエル勝率はベンフィカがわずかに上回り(51.5%)、保持優位の裏側で、局面勝負は拮抗〜不利だったことが数値に出ている。

プレス:前半高強度→後半は低ブロックへスイッチ

プレスは、前半序盤のベンフィカが最も強度が高かったとみられる。レアル公式も試合開始直後の高テンポを明記しており、立ち上がりは「前進を遅らせ、相手のミスを誘い、CKや二次攻撃に接続する」設計があった。後半はスコア状況からプレスの高さを下げ、ブロックを下げた守備(“二枚のライン”)に比重を移した。ここには“相手の強み(土台の保持)を受け入れつつ、こちらの強み(トランジション/セットプレー)で上書きする”というモウリーニョ的な割り切りが表れている。

(映像面の補足)公式ハイライトとしては、TNT Sportsの「Champions League Highlights」クリップ(5分33秒)と、GKトルビンの“信じられない”という短尺クリップが確認できる。

勝敗を分けた要因と結論

最大の分水嶺は「どの局面で勝つか」の設計差である。レアルは保持で優位を取り、パス成功率90%超の安定を作ったが、失点が“保持の失敗”ではなく“保持の副作用(攻撃配置の高位化)”から生じた。2失点が「速攻→クロス→ヘッド」、もう1失点が「カウンター発生」文脈で語られる以上、これは偶発ではなく構造問題である。

ベンフィカは、少ない保持(32.8%)でも、相手陣ボックス侵入(Opp. box touches 47)と枠内12本まで到達し、xGでも上回った。すなわち「保持量」ではなく「保持の質(得点に直結する局面を作る速度と再現性)」で勝った。

終盤の2退場とGK決勝点は劇的だが、戦術的には“例外”ではなく“帰結”である。押し込む側(レアル)が規律を失えば、最後はファウルで止めるしかなくなり、最後のFKで人数を欠いた相手に対して、モウリーニョは「上げるべき駒(GK)」を迷わず上げた。Reutersが示す通り、ベンフィカはその1点で順位条件を満たし、試合とコンペティション上の目的を同時に達成した。

結論として、本試合の戦術的価値は、①トランジション設計、②セットプレーの期待値最大化、③ゲーム状態(順位条件)に応じたリスク管理、の三点を一つの90分に圧縮して提示した点にある。アルベロアのレアルは、保持の骨格自体は成立していたが、次戦で求められるのは本人が語る通り「セットプレーと90分の完全性」であり、ここを修正できるかが再戦の焦点となる。

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