ストレッチの種類(静的ストレッチ・動的ストレッチ)と効果的な使い分け方
ストレッチと言っても、そのやり方や狙いは一つではありません。代表的なのが静的ストレッチと動的ストレッチで、 それぞれ生理学的な効果も、筋トレ前後での適切な使い方も異なります。
ここでは、科学的な知見を踏まえながら、「何を・いつ・どのように伸ばすべきか」を整理していきます。
1. 静的ストレッチとは何か
静的ストレッチ(スタティックストレッチ)は、筋肉を一定の長さまで伸ばし、その姿勢を静止して保つストレッチです。 たとえば、ハムストリングスを伸ばす前屈の姿勢を20〜30秒キープするような方法です。
1-1. 静的ストレッチの主な生理学的効果
- 筋の粘弾性の変化:筋や腱の粘弾性が変化し、一定時間後に関節可動域が広がる。
- 筋緊張の低下:筋紡錘やゴルジ腱器官を介して、筋の緊張レベルが低下し、リラックスしやすくなる。
- 長期的な柔軟性向上:継続的に行うことで、関節可動域のベースラインを高めるのに有効。
1-2. パフォーマンスへの影響
筋トレやスプリントなど爆発的な力発揮が求められる直前に、長時間の静的ストレッチ(60秒以上/部位)を行うと、 一時的に筋出力やジャンプ高が低下することが多くの研究で報告されています。
- 短時間(20〜30秒程度)の静的ストレッチでは影響が小さいとする報告もあるが、
- 高いパフォーマンスが必要な場面では、メインセット直前に長く伸ばし続ける静的ストレッチは避けるのが無難です。
1-3. 静的ストレッチが適している場面
- トレーニング後の整理運動として、筋緊張を落としたいとき。
- 別日に行う柔軟性改善セッションとして、可動域向上を狙うとき。
- 慢性的に硬くなりやすい筋(ハムストリングス・大腿四頭筋・胸・ヒップなど)を標的としたケア。
2. 動的ストレッチとは何か
動的ストレッチ(ダイナミックストレッチ)は、関節と筋を動かしながら可動域を出していくタイプのストレッチです。 反動を使った勢いだけの「バリスティックストレッチ」とは区別され、コントロールされた動きが前提です。
2-1. 動的ストレッチの主な生理学的効果
- 筋温・体温の上昇:関節を動かし続けることで、筋温が上がり、筋収縮のスピードや効率が向上する。
- 神経系の活性化:運動単位の動員がスムーズになり、反応速度やコーディネーションが高まる。
- 関節可動域の「機能的」向上:実際の動作パターンに近い形で可動域を使うため、競技動作への移行がスムーズになる。
2-2. パフォーマンスへの影響
多くの研究では、筋トレやスプリント前のウォーミングアップに動的ストレッチを取り入れることで、筋力・パワー・スピードのパフォーマンスが維持または向上することが示唆されています。
- 実際の種目に近い動きを組み込むことで、運動パターンのリハーサルとしても機能する。
- 心拍数や血流量が増え、酸素供給や代謝の立ち上がりもスムーズになる。
2-3. 動的ストレッチが適している場面
- 筋トレやスポーツ前のウォーミングアップ。
- 試合や高強度セッションの前に、機能的な可動域と反応速度を高めたいとき。
3. 静的ストレッチと動的ストレッチの比較
| 項目 | 静的ストレッチ | 動的ストレッチ |
|---|---|---|
| 実施方法 | 伸ばした状態で姿勢を静止し、20〜30秒程度キープ | 関節をコントロールしながらリズミカルに動かす |
| 主な狙い | 柔軟性向上・筋緊張の低下・リラックス | 筋温・体温の上昇・神経系の活性化・機能的可動域の確保 |
| パフォーマンスへの影響 | 長時間・高頻度だと一時的な筋力・パワー低下の可能性 | 多くの場合、パワー・スピード・ジャンプなどの維持・向上に有利 |
| 適したタイミング | トレーニング後・オフ日の柔軟性トレーニング | トレーニング前のウォーミングアップ |
| 対象者 | 柔軟性不足が顕著な人・筋のこわばりが強い人 | 筋トレ・スポーツを行う全ての人 |
4. 筋トレ前後の具体的な使い分け
4-1. 筋トレ前:動的ストレッチがメイン
筋トレ前のストレッチは、「パフォーマンスを上げつつケガを防ぐ」ことが目的です。 そのため、基本的には動的ストレッチ+アップセットを中心に構成します。
- 5〜10分の軽い有酸素運動(バイク・ウォーキングなど)で全身を温める。
- レッグスイング、アームサークル、ランジウォークなどの動的ストレッチを用いて、関節可動域と神経系を準備。
- その日のメイン種目(スクワット・ベンチプレスなど)を軽い重量でアップセットとして数セット行う。
静的ストレッチを筋トレ前に入れる場合は、以下のような使い方が現実的です。
- 極端に硬くて動作に支障が出る部位のみ、軽めに20秒程度行う。
- メインセット直前ではなく、ウォーミングアップの早い段階で短時間にとどめる。
4-2. 筋トレ後:静的ストレッチがメイン
筋トレ後は、筋緊張を落とし、関節可動域を維持・改善するフェーズです。 このタイミングでは、静的ストレッチが特に有効です。
- トレーニングで使った部位(大胸筋、広背筋、大腿四頭筋、ハムストリングス、ヒップ、ふくらはぎなど)を中心に、 1部位20〜30秒×1〜3セットを目安に静的ストレッチ。
- 呼吸を止めず、痛みのない範囲で「伸び感」が持続する程度の強さで行う。
- 可能であれば軽いウォーキングなどで心拍数を落ち着かせた後にストレッチを行うと、リラックス効果も高まる。
5. 典型的なルーティン例
5-1. トレーニング前の例(約10〜15分)
- 5分:バイクまたは早歩きで全身を温める。
- 5分:動的ストレッチ(レッグスイング、アームサークル、ランジ+ツイスト、ヒップサークルなど)。
- 5分:その日のメイン種目の軽重量アップセット。
5-2. トレーニング後の例(約10分)
- 3〜5分:軽いウォーキングで心拍数を下げる。
- 5〜7分:使った部位を中心に静的ストレッチ(1部位20〜30秒)。
6. まとめ
- 静的ストレッチは、柔軟性向上と筋緊張の低下に有効であり、トレーニング後や別日の柔軟性トレーニングに適している。
- 動的ストレッチは、筋温・体温の上昇、神経系の活性化、機能的な可動域の確保に優れ、トレーニング前のウォーミングアップに最適。
- 筋トレ前に長時間の静的ストレッチを行うと、一時的に筋力・パワーが低下する可能性があるため、静的ストレッチは短時間・必要最小限にとどめるのが賢明。
- トレーニングの効果を最大化し、ケガを予防するためには、「ストレッチ=とりあえず伸ばす」ではなく、 目的とタイミングに応じて静的と動的を使い分けることが重要です。
自分のトレーニング内容・柔軟性・疲労度に合わせて、ストレッチの種類とタイミングを設計することで、 パフォーマンスとコンディションは確実に変わっていきます。