石灰沈着性腱板炎の特徴と急性期・回復期のセルフケアの考え方
このページでは、石灰沈着性腱板炎について「どんな疾患か」「急性期と回復期で何が違うのか」「セルフケアはどのタイミングで何をしてよいのか」を整理します。ここでの内容はあくまで一般的な情報であり、診断や治療の代わりにはなりません。必ず整形外科医や理学療法士の指導を前提にし、その補助として活用してください。
1. 石灰沈着性腱板炎とは?
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発生部位 | 肩の腱板(ローテーターカフ)、特に棘上筋の腱にリン酸カルシウムなどの石灰が沈着することで起こる。 |
| メカニズム | 腱内に石灰がたまることで組織内圧が高まり、炎症や強い疼痛を引き起こす。石灰が吸収される過程でも強い痛みが出ることがある。 |
| 発症の特徴 | 「ある日突然、肩に激痛が走る」といった発症の仕方が典型的。夜間に急激な痛みで眠れなくなるケースも多い。 |
| 経過 | 石灰が沈着する時期、炎症が強くなる急性期、そして石灰が徐々に吸収されていく吸収期を経ていく。吸収期では痛みが軽くなる一方で、可動域制限が残ることもある。 |
2. 主な症状とセルフチェックの目安
正確な診断はレントゲンや超音波などの画像検査を含めて医師が行う必要がありますが、典型的な症状を整理しておきます。
| 症状 | セルフチェックのポイント |
|---|---|
| 安静時痛・夜間痛 | 何もしていなくても肩がズキズキと痛む。特に夜間、横になったときや寝返りのタイミングで痛みが強くなり、眠れないことがある。 |
| 動かさなくても痛い | 腕を動かしていない状態でも持続的な痛みを感じる。動かしたときの痛みだけでなく、安静時の疼痛が強い場合は急性期を疑う。 |
| 肩の動きの制限 | 痛みのために腕を挙げる、後ろに回す、横に広げるなどの動きが大きく制限される。自分で支えながら動かしても可動域が狭い。 |
| 圧痛 | 肩の前面〜やや外側(上腕骨頭の上あたり)を押すと強い痛みが出ることがある。 |
これらはあくまで目安であり、「石灰沈着性腱板炎かどうか」を自己判断する材料ではありません。強い痛みがある場合は、早期に整形外科を受診してください。
3. 急性期(炎症期)の対応
痛みが非常に強い時期(安静時痛・夜間痛が顕著なフェーズ)は、セルフケアよりも「炎症をいかに抑えるか」が最優先です。
| 対応 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 安静第一 | 肩をできるだけ動かさないようにし、痛みを誘発する動作(腕を挙げる・捻る・重い物を持つ)を避ける。必要に応じて三角巾やスリングで一時的に固定することもある。 |
| 冷却(アイシング) | 医師の許可がある場合、氷嚢や保冷材をタオル越しに肩に当てて冷やす。1回あたり15〜20分を目安にし、皮膚の凍傷を避けるため直接当て続けない。 |
| 医療機関での画像診断 | 整形外科を受診し、レントゲンや超音波検査などで石灰沈着の有無・位置・サイズを確認する。必要に応じて他疾患との鑑別も行う。 |
| 鎮痛薬・注射など | 内服薬(消炎鎮痛薬)や肩関節内への局所麻酔・ステロイド注射が選択されることがある。これらは医師の判断で行われるものであり、自己判断での市販薬多用は避け、必ず説明を受けたうえで使用する。 |
| やってはいけないこと | 「固まるのが怖いから」といって、激痛を我慢しながら肩を大きく回す・ストレッチする・重い物を持ち上げるなどは厳禁。炎症を悪化させる可能性がある。 |
4. 回復期のストレッチとモビリティ回復
石灰が徐々に吸収され、痛みが落ち着いてきた段階(回復期)では、「可動域の回復」と「肩周りの動きの質」を整えるフェーズに移行します。必ず医師・理学療法士から運動開始の許可を得たうえで行ってください。
4-1. 目的
- 痛みで動かせなかった期間に硬くなった肩関節まわりの筋・関節包・胸郭の柔軟性を取り戻す。
- 肩甲骨と上腕骨の協調した動きを取り戻し、再発や他の肩障害を予防する。
4-2. 代表的なストレッチ・モビリティエクササイズ
| 種目 | 狙いとポイント |
|---|---|
| クロスボディストレッチ | 片方の腕を胸の前で反対側に引き寄せ、肩の後方組織を伸ばす。痛みのない範囲で行い、肩をすくめないように注意する。 |
| 壁這い(フィンガーウォール) | 壁に指先をつけて少しずつ上に歩かせるように腕を挙上していく。痛みが出る手前で止め、そこで数秒静止する。勢いをつけずゆっくり行う。 |
| 肩甲骨はがし・肩甲骨モビリティ | 四つ這いで肩甲骨を前後・上下・回旋させる、パートナーやセラピストに肩甲骨を動かしてもらうなど、肩甲骨周囲の動きを引き出す。 |
| 胸郭ストレッチ | 胸を開くストレッチ、胸椎の伸展・回旋エクササイズなどで、猫背姿勢を改善し肩関節への負担を減らす。 |
具体的なフォームが分かりにくい場合は、「石灰沈着性腱板炎 ストレッチ」「肩 石灰沈着 ストレッチ」などで検索し、医療職・リハビリ専門家による解説動画や図解を参考にしてください。いずれのストレッチも痛みが強くなる手前で止めることが原則です。
5. 回復段階での軽負荷トレーニング
炎症が十分に落ち着き、ストレッチである程度動きが戻ってきた段階で、「安定性」と「筋力」を少しずつ高めていきます。必ず担当医・理学療法士と相談しながら負荷を調整してください。
5-1. ローテーターカフの安定性向上
| 筋群・種目 | ポイント |
|---|---|
| 棘下筋・小円筋(外旋エクササイズ) | ゴムチューブを使い、肘を体側に軽くつけた状態で肩の外旋運動を行う。動きは小さく、痛みの出ない範囲で反復し、肩をすくめないように注意する。 |
| 肩甲下筋(内旋エクササイズ) | 同様にチューブで内旋運動を行う。過度な負荷や大きすぎる可動域は避け、コントロールしやすい範囲で実施する。 |
5-2. 肩甲骨安定筋群の強化
| 筋群 | 種目例・ポイント |
|---|---|
| 前鋸筋 | ウォールプッシュアッププラス、四つ這いでのプッシュアッププラスなど。肩甲骨を前方に押し出す動きをコントロールし、代償的な肩すくめを避ける。 |
| 僧帽筋下部・中部 | Yレイズ、Tレイズ、ローイング系のエクササイズを軽い負荷から開始。肩甲骨を下げて寄せる感覚を意識する。 |
いずれのトレーニングも、最初は軽いチューブや小さなダンベルから始め、痛みや疲労感を確認しながら段階的に回数・負荷を調整していきます。
6. セルフケアでの注意点
| 注意点 | 解説 |
|---|---|
| 炎症が残っている場合は運動を行わない | 安静時痛・夜間痛が続いている、じっとしていてもズキズキする段階は「まだ急性期〜炎症期」の可能性が高い。この状態でストレッチや筋トレを行うと悪化のリスクが高い。 |
| 痛みを我慢しない | 「良くするため」と無理に可動域を広げたり、強い痛みを感じながら運動を続けることは逆効果になりやすい。痛みは重要なサインとして尊重する。 |
| 運動前に炎症の有無をチェック | セルフケアを始める前に、「安静時痛が落ち着いているか」「夜間痛は改善しているか」「医師から運動許可が出ているか」を確認することを習慣化する。 |
| 日内変動に注意 | 朝・夜・運動後など、時間帯による痛みの変化を記録しておくと、医師や理学療法士が治療方針を立てる際の参考になる。 |
| 左右差・疲労感の変化 | 患側と健側の動きや疲れ方がどの程度違うかを把握し、無理な負荷を避ける。異常な疲労感や痛みの増悪があればすぐに運動を中止する。 |
7. 医師・専門家の指導の重要性
- 石灰沈着性腱板炎は、腱板断裂・他の関節炎・頚椎由来の痛みなどとの鑑別が重要な疾患であり、自己判断でのセルフケアだけに頼るのは危険です。
- 炎症コントロール(薬物療法、注射、物理療法など)は医師の役割であり、セルフケアはその後の回復段階で「可動域・筋力・動作パターン」を整える補助的な位置づけです。
- 理学療法士やアスレティックトレーナーは、痛みの状態・可動域・筋力・スポーツレベルに合わせて運動プログラムを設計し、フォームや負荷設定を細かく調整します。
- 痛みが長期化する、日常生活動作が大きく制限される、夜間痛が改善しないなどの状況では、治療方針(保存療法の継続か、注射・手術の検討か)の見直しが必要であり、早めの相談が重要です。
石灰沈着性腱板炎は、急性期の激しい痛みと、回復期の可動域制限という2つのフェーズを理解することが非常に大切です。炎症が強い時期は「動かさない勇気」を持ち、痛みが落ち着いてきたら、医師・専門家の指導のもとでストレッチや軽負荷トレーニングを段階的に取り入れていくことが、安全で実用的なセルフケアの基本となります。